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第一輪 鬼を呼ぶ娘
「せつな!せつな!」
昼食時。
居間から厨房にまで響く金切り声。
しかめっ面で声を上げているのは、この屋敷の当主、田沼繁の妻である喜代だ。
椿油で光る黒髪を束ね、唇には真っ赤な紅。
歳のわりには派手な柄の着物に身を包んでいる。
喜代は箸を置き、せつながやってくるのを苛立ちながら待つ。
「せつな!いないの!?」
「…は、はい!ここにおります…!」
喜代に呼ばれ、そそくさとすり足でやってきた小汚い古びた着物姿の女中。
細い腕にあかぎれだらけの手、血色の悪い肌。
見るからに貧相なこの若い娘が、せつなだ。
「奥様、…いかがいたしましたでしょうか」
「あなた、さっきわたくしの食事を運んでいたわよね?」
「…はい。それがなにか――」
とせつなが言いかけたとたん、その顔に突然味噌汁をぶっかける喜代。
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