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困ったようにせつなを見下ろす無精髭の男。
「一応、商品だ。顔に傷をつけたら、あとで楼主にうるさく言われるぞ」
「わーってるよ、そんくらい」
「見世の名前を吐けば許してやれ。これに懲りたら、二度と同じことはする気にならんだろう」
手間賃だろうか、見張り役の男から無精髭の男になにかが手渡される。
「はいよ。たしかに」
無精髭の男は受け取ったものを懐に入れると、チラリとせつなに目を配った。
「オレだってべつにこんな仕事、好きでやってるわけじゃないんだから悪く思うなよ」
そうつぶやく無精髭の男だが、頬がゆるむその顔はとても本心で言っているとは思えない。
どこか、楽しんでいるようにも見える。
「それじゃあ、こっちにきてもらおうか」
「…いや!離してっ…!」
嫌がるせつなの襟元をつかむと、無精髭の男は水瓶の前までせつなを引きずる。
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