ワイルド・ビーナス ピンクのサウスポー 新魔球お化けナックル

お化けナックル

『新魔球のお化け(ゴースト)ナックルだ。ゆっくりとした軌道で打者へ迫っていく』
　天才バッターの若王子はタイミングを合わせていた。
『おおォバッターの手元へ近づくとボールが揺れて二つ、三つ、四つと分身していった。お化け(ゴースト)ナックルだァ』
　投げたボールがユラユラとブレて分身していった。
「しょせんボールはひとつ。あとは残像だ」
　打者(バッター)の若王子はそのひとつに照準を絞り、思いっきりバットを振った。
“カッキィン”
　乾いた音を残し打球が消えた。
『プリンス、打ったァーーー』
「おッおおおォォォォーーーッ」
　一斉に歓声が響いた。
「……」だがバッターの若王子は悔しそうに顔を歪めた。
「キャッチャー」
　ビーナスは上空を指差し叫んだ。
「うッううッ」
　すぐさま捕手の星ヒカルはキャッチャーマスクを外し、上空を見上げた。
　打球は捕手の上にあった。
『おおッ、キャッチャーフライだ。打球はファールフライだ』
　ゆっくりと捕手の星ヒカルはミットを構えて高く上がったファールフライを捕球した。
「ワァーーーッ」
　ドーム内に歓声が轟いた。
「アウト。ゲームセット」
　球審がコールした。
『おおッ、若王子の渾身の一打は残念ながらキャッチャーへのファールフライでした。これでスリーアウトチェンジだ。ワイルドビーナス見事な火消しだァ！』
　実況アナも絶叫した。
「ワァーーーッ」
　一斉にフェニックスベンチから選手や監督コーチらがグラウンドへなだれ込んだ。