ビーナス見参

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ビーナス見参

 満員の東京スーパードームにウグイス嬢の場内アナウンスが流れた。 『東京フェニックス、投手の交代をお伝えします。九番ピッチャー・ワイルドビーナス。背番号ゼロ!』  高らかに入場曲の『サウスポー』が鳴り響いた。  マウンドには小柄なワイルドビーナスが向かった。 『ウッオォーーッ』  場内は耳をつんざくような大歓声だ。  ビーナスは体格の良い野手に囲まれると埋もれてしまうほど小柄だ。とてもプロ野球の投手(ピッチャー)とは思えない。当然だ。まだ彼女は小学六年生だった。華奢で身長も百五十センチに満たない。 『ここ東京スーパー・フェニックスドームは大歓声に揺れております。九回表、二死満塁。東京F(フェニックス)が一点リードしているものの絶体絶命のピンチが続きます。ついに謎の仮面美少女ワイルドビーナスがプロのマウンドへ立った。まさに救世主となれるのか。一塁側フェニックス応援団も一気にマックスボルテージだァ!』  マウンドに集まった捕手(キャッチャー)の星ヒカルは、代わった投手のビーナスに耳打ちをした。 「いいか、ビーナス。かく乱するために一球目のサインは首を振れ。ッで、初球から勝負球のナックルだ」 「わかってるよ。ウゼェな。ちゃんと私のナックルを取れるのか?」 「任せとけ。安心して投げろよ」  捕手()はミットを叩いた。 「いいか。後逸(パスボール)をしたら三塁ランナーが帰って同点だからな。ポチ!」  ビーナスはキュートな顔をしているがヤンキーのように柄が悪い。 「はァ。ポチじゃァねえェよ。星だよ。オレの名前は!」 「いいから、とっととウンコ座りしろよ。ちゃんと捕球(とら)ねえェと鼻を叩き折るぞ。ポチ」  ビーナスは胸の前に拳を握りしめた。 「だから星だ。星ヒカルだ。オレは」  投げる前から二人は口喧嘩ばかりだ。相性は険悪なバッテリーといって良い。
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