ゴーストナックル

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ゴーストナックル

 ビーナスの投球練習中もフェニックス側のダッグアウトでは(せわ)しなく監督が指示を送っていた。 「送風を最強にしろ。最強だ。わかっているのか?」  早口でまくし立てた。 「ハイ、投手交代を告げた時に、ちゃんと指示しておきました」  投手(ピッチング)コーチも抜かりがない。バックネット裏からの送風は最強になっていた。 『さァ規定の投球練習も終わり試合再開です。すべての塁は埋まっています。一塁側ジャガーズ応援団は一気呵成に押せ押せムードだ。果たしてビーナスは伝家の宝刀ナックルで二死満塁のピンチを抑えられか?』  ビーナスはセットポジションを取り走者(ランナー)を警戒した。しかし走者(ランナー)は動く気配はない。ジャガーズベンチもこの場面、打者の若王子に任せっきりだ。  下手に動いて、ランナーがアウトになれば即座にゲームセットになる。ジャガーズベンチも若き主砲の若王子には全幅の信頼を寄せていた。 『それとも若き天才バッタージャガーズのプリンス、若王子がナックル姫を打ち砕くか。注目の第一球です』  セットポジションのビーナスの長い金髪が風に靡いた。  キャッチャーの星ヒカルからサインが送られた。ビーナスは言われた通り一球目のサインに首を振った。  一斉に球場内がどよめいた。 『おお、ビーナスが首を振った。サインが合いませんね』 『いや、フェイクでしょう。ここはナックル以外ありませんよ』  解説の神条も断言した。 『さァフェニックスドームは興奮の坩堝(るつぼ)と化した。華麗なアンダースローから注目の第一球だ』  ビーナスが投げた。
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