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ナックルボール
ナックルボールだ。
とてもプロの投手とは思えないほど遅い球だ。プロ野球の公式戦では滅多に見られないだろう。一見、草野球のレベルだ。
『やはりナックルだ。球速は百キロにも満たない』
だが打者の若王子もあまりにも遅くてタイミングが取りづらい。
『ううゥン、若王子は普段の練習ではバッティングマシンの百六十キロのボールを打ってますからね。逆に遅いボールを打つのは難しいかもしれません』
解説の神条も遅いボールを打つのは容易ではないと言った。プロ野球選手は普段、百五十キロを越える速球に目が慣れていた。超スローボールは有効かもしれない。
ビーナスが投げたボールはユラユラと奇妙な軌道を描きバッターの手元で変化した。
だが天才プリンスは逃さない。
「!」若王子の目が光った。
手元まで引きつけ、バットを一閃。
さすがバットコントロールは球界一だ。
落ちるナックルボールを泳ぎながらもバットに乗せた。
カッキィーン。
『打ったァーーッ。快音を響かせ、一塁線へ痛烈な打球が飛んだ。フェアグランドへ入れば間違いなく長打コースだ』
「ううゥッ」
ビーナスも振り返って打球の行方を追った。
「ウッオォーーーッ」
逆転の一打にジャガーズ応援団が盛り上がった。両軍ベンチも立ち上がって打球の行方を見つめた。
「ワァーッ」一塁側のフェニックス応援団の悲鳴が轟いた。
しかしわずかに打球は一塁線を逸れ、ファールグランドへ転がっていった。
『おおッファールだ。わずかにファールでした』
あとボール二、三個分、フェアグランドへ入っていれば走者一掃の勝ち越し打だっただろう。
「なァんだ」
ジャガーズベンチからは落胆の声が響いた。
「ふぅ」対するフェニックスベンチは安堵のため息だ。
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