新魔球

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新魔球

「いけェッ、プリンス。ナックルなんか打ち崩せェ」  三塁側ジャガーズ応援団は一気呵成に畳み込む勢いだ。 「ビーナス、ビーナス、ビーナス」  一塁側フェニックス応援団も必死にビーナスコールを送っていた。  ランナーはあまり塁から離れず動く気配はない。 『さァ二球目もナックルか。それとも新魔球を出すのか。キャッチャー星ヒカルからサインが出された』 「フフゥン、さァビーナス。ゴーストナックルとやらを見せてもらおうか」  若王子は上から目線で待ち構えていた。 「……」キャッチャーも複雑なサインを出すが、ここは新魔球しかない。  その時、ビーナスは三塁側を見るようにセットポジションを構えた。 『おおッサウスポーのビーナスが逆にセットポジションについた。これでどうやって投げるというのか?』  球場全体がどよめいた。 『普通、左投手(サウスポー)の場合、一塁側に身体を向けてセットポジションを取るんですけど』  解説者も不思議な顔で逆向きにセットしたビーナスを見つめていた。 「おいおい、お嬢ちゃん。投げ方を忘れちゃったのかァ?」 「誰か、投げ方を教えてやれよ。お嬢ちゃんに」  三塁側ジャガーズ応援団から口汚いヤジが飛んだ。  しかしキャッチャーの星は真剣な顔でミットを構えていた。 「おい、それじゃァボークじゃないのか?」  ジャガーズベンチからも指摘があった。 『投球動作に入らないとボークかどうかは判断できませんが、今のところ、ボークではなさそうです』  実況アナも初めての事に狼狽(うろた)えていた。
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