分身魔球

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分身魔球

 実況アナもはじめてのことに狼狽(うろた)えていた。 『ピッチャーの右脚が上がった。このままではサードへ牽制球を投げるのでしょうか』   だがビーナスは左足を軸にフィギュアスケートのようにスピン回転し、鮮やかにアンダースローへつなげていった。 『おおッ、半回転スピンして、その回転を利用して投げた。ナックルボールだ』  しかも投げたボールは空中で揺れていった。 「バッバカな!」  天才スラッガー若王子もビーナスの投じたボールに目を丸くした。 『おおッボールがモノすごく揺れている。まるでスーパーボールのようだ』  バッターの手元へ来るとボールが三つ、四つと分裂していった。 「なッなにィ、分身魔球か?」  バッターの若王子もこんな魔球は初めてだ。明らかに普通のナックルとも違った。 「くゥッ、真ん中のボールか」  若王子はヤマ勘で、分身したボールの真ん中のボールに照準を合わせた。  バットを一閃。  しかし虚しくバットは空を斬った。  ボールはそのままキャッチャーのミットへ吸い込まれていった。 『おおッ、空振りだ。珍しく若王子のバットが空を斬った!』 『な、なんだ。今のボールは分身魔球か?』   解説者の神条もあ然とした。 「ス、ストライク」  球審もワンテンポずれてコールした。 「ウッワァーー」一斉に一塁側応援団から大歓声が響いた。 「ううゥ、待った。タイムだ」  しかし即座に若王子はタイムを掛けた。  すぐさま人差し指で捕手のミットのボールを差した。 「今のはスピットボールじゃないのか?」  信じられないほど奇妙な変化球なので若王子もクレームをつけたのだろう。
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