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ピッチャー・ワイルドビーナス
『さァ、東京F対東京Gの東京ダービーも大詰めの九回表、試合は一段と縺れて参りました』
実況アナも興奮気味だ。
東京Gの二番バッターがヒットを打ち満塁となった。
『東京F、5対4と一点リードのまま連続ヒットを打たれ満塁。絶体絶命のピンチです。しかし新型感染症のためブルペンの投手陣は崩壊寸前。なんとか先発の渡瀬が踏ん張り、九回二死までこぎ着けましたが、ここで打席に若き天才バッター、若王子聖矢を迎えました』
『ううゥン、苦しいですね。先発の渡瀬も百三十球ですか。ヒジも下がってますし球威も明らかに落ちています。次のバッターは苦手とする左のスラッガー若王子なのでここは交代でしょう』
『どうしますか。フェニックスのブルペンも忙しくなってきました。なにしろ中継ぎもクローザーも感染症のため欠いております。ここは左投手のワンポイントを使いたいところですが投手陣は緊急事態。ここで、ついに東京Fの秘密兵器がベールを脱ぐでしょうか』
『そうですね。ここはピンクのサウスポーでしょう』
その時、東京Fの監督が動いた。
『おおォッ、観衆がどよめいた。ついに東京Fの監督が動いた。堪らずピッチャー交代でしょう』
満員の東京スーパードームにウグイス嬢の場内アナウンスが流れた。
『東京フェニックス、投手の交代をお伝えします。九番ピッチャー・ワイルドビーナス。背番号ゼロ!』
高らかに入場曲の『サウスポー』が鳴り響いた。
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