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「人死んでたんやろ? ロエリちゃんの家の近くで」
教室ですみちゃんがバーンて、机に手をついて私の前に陣取った。
「そうなの。私の家の裏だよー。山でおじさんが死んでたって」
そうは言ったけどなんだか実感が湧かないなー。家の裏って言っても山で、私の家族の所有地じゃないから登らないし。イノシシ怖いから近づかないし。
私、素戸路ロエリは日本人の母と、アメリカ人の父の間に生まれた。父譲りの金髪を後ろで軽くゴムで留めてる。理由はおしゃれとかじゃなくて邪魔だから。目は普通に青い。アメリカの帰国子女だと思われた私が「日本語はペラペラ、英語できなくてごめんって感じ」って転校初日に挨拶して、クラス中をドン引きさせてしまった。ごめんよみんな。ほんとクラスの人気者ポジの夢壊してごめんって。日本って転校生に対するイメージのハードル高すぎ。
「犯人、捕まってへんやろ? さすがにニュースでやってそうやけどな?」
志度二すみこ。通称すみちゃんは、関西弁で事件のことを聞いてきた。根っからの関西人でクラスでは異質。黒髪ボブカットがかわいい。なのに、かわいさより男子顔負けの負けん気の強さと、誰とでも平等に話す八方美人が祟って、逆にクラスで浮いちゃう不思議な子。
私もハーフで浮いてるんだけど。
私の中学校ではスマホの持ち込みは禁止だから、リアルタイムでニュースを見ることができない。早朝見つかった遺体は口元がえぐれていたらしく、クラスのあちこちで話題になっている。耳元に飛び交う意見や、面白半分に怖がる女子たちの悲鳴。さらに私にときどき注がれる視線にどぎまぎする。
この事件はどうも他殺の線が強そう。けどこの小さな町で殺人事件なんて起こったら、犯人はだれだれさんの親戚! って指差されちゃうよ!? 警察なんかいらないぐらいのスピードで事件解決しちゃうよ? 石投げられても知らないよ?
「先生、プリント配るやろな。集団下校とかするんかな? もぉーうちら小学生ちゃうねんけどなぁ」
もう中学二年生になるけど、すみちゃんにそう言われるとちょっと怖くなってきた。
「なあ、関係あるんか分からへんねんけど、ロエリちゃんの家の隣の白い空き家あるやんか? あそこ、最近変な車止まってるやろ?」
「変な車なんかあった?」
「なんで知らんねんなー? ちょー、ロエリちゃんの目と鼻の先やで」
そう言ってすみちゃんは、顔をくしゃくしゃにすぼめる。怖い怖い。変顔怖いからやめて。
「白い車あったやんか。あそこ誰も住んでへんのに変やって」
えー、あったかなぁ。朝学校に来るときには見ていないけど。
「じゃ、気ぃつけて帰りや?」
「やめて、怖いからほんとに!」
念押しされるとなんかよくないことが起こりそう。
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