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 一度も振り返ることなく白い家に入って行った。あ、あのOLともホステスとも分からぬミステリアスな人がお隣さん? 「ちょっと、すみちゃん。どうして挨拶させてくれなかったの?」 「ロエリちゃんが隣に住んでるんやって、知らせる必要ないやん?」  困惑する私をよそに、レインは腹を抱えて笑う。 「普通の姉ちゃんだったじゃん。ま、確かに髪の毛は長すぎだけどな。ありゃ、風呂に入ったりトイレ行くとき邪魔だろうな」  一人でツボにハマって悶えているレイン。 「もう、変な想像やめてよ」  すみちゃんは眉間にしわを寄せている。  あの女の人(曽音(そね)()さんだっけ?)を口裂け女だと疑っているんだ。 「すみちゃん。心配しなくてもいいよ。口裂け女って、あんなに普通の挨拶する?」 「口裂け女も人間社会を学んだんかもな」 「いやいや、すみこ。ああ、あれは普通じゃなかった。なんていうか大人の色気ムンムンだった」  レインは顎に手を当ててさも謎だという風に頷いて見せる。 「あんただけ、どこ見てんねんな」  ちょっと、すみちゃんがキレ気味……。まあ、レインの言おうとしていることは分からなくもないけど。年は二十代後半から三十? ぐらいに見えた。輪郭が鋭角的だからちょっときつい感じの印象を与える。職場で幅を利かせていそうなきつい性格に見える。 「ああいう人のことを言うんだろうな。『妖艶』って」 「レインのヨウエンの使い方間違ってへん? エロいって意味ちゃうで?」  あきれ顔のすみちゃん。ため息をついたと思ったら、私に指を突き出す。 「また、調べに来たるわ」  レインが肩をすくめる。私も口裂け女なんて信じてなかったけれど、すみちゃんと会うのが楽しいから「うん」と笑った。このことが、後で大変な事態を引き起こすなんてこのときは思いもしなかった。
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