廃遊園地のゴースト・ラヴァーズ

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廃遊園地のゴースト・ラヴァーズ

 夜の廃墟に一人きりという現状を認め、恐怖が胸の底から湧き上がり、全身を震わせた。反射的にスマホを取り出したが、「圏外」の表示に絶望感が強まる。息を整え、冷静になろうと努めた。 ──大丈夫。ゲートから出て、来た道を引き返せば良い。パーキングまでたどり着ければ、3人もそこに居るかもしれない。居なくても、あそこまで行けば電波が繋がるはず。涼太に電話すれば良い。  状況を整理すると、少し気が落ち着いた。 ──とにかく、入ってきたゲートを探さないと。外周を探索しよう。廃墟には不審者が潜んでいるかもしれない。3人以外の人間に気をつけながら、見つからないように目立たないように移動しよう。  意を決して、私は歩き出す。  その時だった── 「──ユキちゃん?」  声が響いた。甘やかな声で、男のものとも女のものとも分からない。ただ、あの3人の誰とも違う声だった。  私は向き直り、声の主を探す。天上から響いたかのように錯覚したが、勿論そんなはずはない。私は背後に、その姿を認め、思わず息を呑む。  ──青年だ。一人の美しい青年がそこに居た。  満月の真下に、スラリと立つその姿は、月から糸で吊り下げられた人形のようだ。細身の肢体。その肌は恐ろしく白く、月明かりのせいか、青白く発光しているように見えた。ふわりと、綿毛のような髪。丸く、人懐っこそうな両目の下には、泣きぼくろがあった。 ──ああ、やっぱり。私はこの人を知っている。でも、まさか── 「ユキちゃん、僕のこと覚えてる?」
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