秋の音色

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 私の担当は、ファーストフルートだ。ピッコロの掛け持ちもする。 座席は最前列で、右隣がクラリネットで、左隣がセカンドフルートだ。 最後列のパーカッションが羨ましい。 こんな時、せめて二列目なら良かったのに。  ミヤタは、少し意地悪そうに両の口角だけをニヤリと吊り上げて、 「よし、今日はここまで」 そう言ったのだった。  その瞬間、緊張の糸がどっと緩んで、一気に音楽室の空気が軽くなったように感じた。  窓の外はもう暗く、皆が楽器を片付ける雑踏に紛れて、人工的な光に照らされた草むらのどこかから、リンリリンと鈴虫の羽音が聴こえる。向こうの校舎の上には、銀色の月が浮かんでいた。  左手首に着けている腕時計を見てみると、もう既に夜の20時だった。
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