秋の音色

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 楽器準備室に行き、所定の位置に折り畳んだ譜面台を片付けているときに、クラリネット担当のリエ先輩が、楽器ケースを胸に抱いて、ふぅ~っとため息をついているのが見えた。昨日は、同じ場所で声を殺して大粒の涙を流していた。  私は、その姿を見ながらも、かける声が見当たらなかった。  昨日の譜面台倒しは、リエ先輩がターゲットになっていた。  練習中の指揮が突然止み、先生は無言で隣でクラリネットを吹くリエ先輩の譜面台をなぎ倒した。  リエ先輩は、私から数えて、右に二つ目の席なのだけど、その時、私の譜面台も連鎖的に倒れてきた。だけど、両手に構えてたフルートを守るのに必死だった。譜面台ががしゃっと倒れる衝撃音を聴きつつ、少し間を置いて、宙を舞いながらやがて床に落ちて軽い音を立てる楽譜を見ていると、なんだかとてもやるせない気持ちになっていた。  それなのにミヤタは、 『俺は三年生のプライドだって、こうやって踏みにじることが出来る。 悔しかったら、楽譜ばかりにしがみつかずに、もっと音楽に生気を込めろ! 真面目に指揮を見ろ!』 とでも言うように、あたふたする私たちを見て、またいやらしくニヤリと笑うのだ。  リエ先輩だけではなく、高校卒業後の事を見据えて、次のステップのために自らを追い込んでいるのは、リエ先輩だけではない。ここにいる三年生全員がそうだ。大切なのは吹奏楽だけではない時期なのだ。  どちらにしても、オータムコンサートが終われば、三年生は部活を引退することになる。 気持ち良く送り出してあげたら良いのに、それなのに、こうやって度を過した意地悪を体験していると、すごくモヤモヤする。  
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