秋の音色

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 そんなコロナ禍でも、良いことがなかったわけではない。 インターネットでのウェブ会議を利用したやり取りだ。 各自、自宅組や空き教室組のメンバーで繋がりながら、演奏のサポートをする。  そこで先輩方から注意を受けるのだけど、ウェブ上では、音が電子処理されてしまうから、微妙な音のニュアンスはなかなか伝わらない。 そこで、ついにカヨが心の内に仕舞っておいたものが溢れだすように、ぽろぽろと泣き始めた。 その時の私は、カヨの様子をタブレットの画面越しで見ていた。  カヨは、皆と一緒に演奏したい。 コロナのばか!!! 私、まだまだ下手だけど、音楽したいよ!! そう叫んでいたんだ。  その叫びは、画面を観ていた全員に連鎖して、涙の大合唱となっていた。 みんなのやるせない気持ちが、ひとつになった瞬間でもあった。カヨはそれを機に、皆と仲良くなった。 それに、やっぱり皆、音楽が好きなんだと再認識することも出来た。  そして、今年のゴールデンウィークが終わる頃に、コロナは5類感染症になったことで、自粛もマスクも個人で判断ということになった。  ただ、まだまだ警戒は必要だったから、全員で集まれるのは、土曜日の午後からの練習だけだった。 まぁ、そんなこともあって、練習不足から、コンクールは銀賞だった。  カヨは私の顔を覗き込んで、満面の笑顔で、 「ねぇレコ、オータムコンサート成功させたいね~!」 と言ったのだった。 カヨのこう言うところ、すごく力強いって感じる。
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