婚約破棄されましたが、夜のお散歩できるようになったので最高です

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 特別な式典があるわけでもないのに、大広間にみなが呼び集められた。 ミハエル様の隣には、美しく気高い聖女リリスが凛とした面持ちで座っている。 「エナよ、今までの妃教育、そなたには大変苦労をかけたな。それも今日までとなる。婚約を解消しよう。私は聖女リリスとの婚約……いや、一日も早い結婚を望んでいる」  トレナダ国第一王子のミハエルは、みなの前で申し訳なさそうに、だがはっきりと宣言した。  拍子抜けだった。てっきり、王立図書館でよく読んでいたマンガや小説みたいに、 「こっそり聖女をいじめていたそうだな?お前とは婚約破棄だ!」  なーんて言われるかもとドキドキワクワクしていたのだが、全くそうはならなかった。  考えてみれば当然のことだ。ミハエル様は聡明なお方で、誰かの口車に乗ったりそそのかされたり、理由なく私を悪役令嬢に仕立て上げたりするタイプではない。  そういう彼だったから、妃教育なんて面倒くさいものを受け入れたのだ。少しでもミハエル様の役に立ちたいと真剣に思っていた。もうお役御免なわけだが、不思議と晴れ晴れとした心持ちだった。 「婚約解消後も不備がないようにする。婚姻も自由に行える。後ろ指をさされる心配はないよう取りはからうゆえ、どうか許してほしい」  ミハエル様は心底申し訳なさそうな様子だった。 「滅相もございません。慎んでお受けいたします。私の実家が貧しかったのにも関わらず、たくさんの温情をいただきました。こちらこそ度重なるご無礼をお許し下さいませ」  政略結婚の別れなど簡単なものだ。ミハエル様と聖女様ならきっとこの国をよりよい方向へと導いて下さるだろう。  かくして私は、一度実家のあるマーズデン領に帰ったが、両親の許可を得て領地内の森に住むことにした。  何かと気にかけてくれるミハエル様のことだから、必ず近いうちに連絡が来る。家にいると使者に会わなくてはいけなくなるし、面倒だと思いしばらく身を隠すことにした。  ミハエル様に縁談などを持ち込まれてもそれはそれで厄介だ。そこで両親に、もし使者が来たのならば、マーズデン領内で悠々自適に暮らしているとだけ伝えてもらうようお願いした。  
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