20人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
森の中は快適だった。いつでも一人でいられる。護衛も従者もメイドもいない。私だけで暮らしていける場所。マーズデンが貧乏侯爵家だったおかげで、小さなころから一人で生きていけるような教育を受けた。
妃教育でもマナーやダンスレッスン、国の歴史、外交問題、政治経済など書ききれないほどの勉強をした。どれもぼちぼちだったが、できないわけではない。
ただ、森の中で一人で生活して思うことがある。一人で生きることができるのは、全ての知識や経験のおかげだ。
妃教育の知識が役立つことも多々あった。
「今までの全てに感謝だな」
そんなことを思いながら夜道を歩いていた。本来なら夜の森は危ないので歩くことはないのだが、あまりに月が美しく導かれるよう外に出た。
狼などに出くわしたらどうしようと思わないではないが、そんなことを忘れるほど幻想的な赤い月が目の前にあり、手が届きそうなほどだ。
いつの間にかだいぶ奥まで来ていたので、そろそろ引き返そうとしていたそのとき、目の前に何かが現れ全身が凍りつく。
大きなイノシシだった。下手に動けば殺されるかもしれない。興奮させてはいけない。狩りの道具もなければ武器も持っていなかった。
イノシシとのにらみ合いが続いたそのときだった。後ろからすごいスピードで矢が飛んできて見事に命中。さらに、騎士の格好をした人物が、赤い月の中から飛び出して来たかのようにイノシシの上に乗り、そのまま背にザクリと剣を突き刺した。
騎士は中性的な美しい顔立ちをしていたが、おそらく男性。金色の髪の毛一本一本が輝き、全身も月の光を浴びて艶めいていた。
最初のコメントを投稿しよう!