婚約破棄されましたが、夜のお散歩できるようになったので最高です

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   * 「まさか一人で住んでるとはな」  あの日以来、事あるごとに二人は森の家を訪ねて来るようになった。いつもフィーノ様とラオハルトは一緒で、どちらか一方ということはない。おそらく、マーズデン領の隣の領地がフィーノ様の管轄なのだろう。 「怖くないの?」 「怖くないですよ」 「メイドもいないぞ?」 「たいてい一人で何でもできるので。侯爵家といっても、平民と変わらない生活をしていたんです」  ふーんと答えつつも、ラオハルトは全く納得していないようだった。 「失礼ですが、森の中に住んでいるのは何か理由がおありなのでしょうか」  フィーノ様が遠慮ぎみに尋ねる。 「隣国なのでご存知ないとは思いますが、少し前に婚約を解消されまして」  ラオハルトは怪訝な顔をして眉毛を釣り上げている。 「悪い話ではなくて、第一王子ミハエル様の前向きな婚約解消です。異世界から来た聖女リリス様をお好きになられたそうです」 「浮気は浮気じゃん」 「浮気ではありません。元々政略結婚なので。ピリナリアもそうでしょう?王子たちはみな政略結婚です。その中でもミハエル様は心から愛する人を見つけたので、それは素晴らしいことだと思うんです」  フィーノ様とラオハルトは顔を見合わせる。 「エマ様は大変お優しい方なのですね」  フィーノ様に微笑まれると心臓が痛い。心臓に悪いほど眩い笑顔で、清らかに澄んだ小川のせせらぎのようだった。 「単なるお人好しだろ」  ラオハルトは呆れてため息をついている。 「それで何で森の中に住むことになるんだ?そんな小汚い格好でさ」  確かに私は町娘の格好をしており、農作業をするためかなり薄汚れていた。今日も薬草の世話をしていたところだ。
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