婚約破棄されましたが、夜のお散歩できるようになったので最高です

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   *  今宵の月は、遠くで黄金色に輝いていた。何となくフィーノ様を思い出す。フィーノ様はあの月のように神々しく麗しい。決して手の届かない存在だった。そんな月の下からひょっこり人影が現れた。 「あら、ラオハルトじゃない」  夜の来訪は珍しい。きょろきょろと当たりを見渡すが、フィーノ様の姿はなかった。 「今日は一人なのね」 「一人じゃ悪いかよ」 「悪くはないけど、珍しいから」 「どうせフィーノがいないからがっかりしたんだろ?」  不貞腐れるラオハルト。がっかりしたわけではなく、純粋に驚いただけだったが、訂正する前にラオハルトがさっさとしゃべり始めた。 「一人になりたいときがあるんだよ」  フィーノ様は見るからに身分が高く、自由があるようには見えない。騎士団員と言っていたが、おそらく団長クラスだろう。それくらいのオーラが普段から溢れ出ており異質だった。 「フィーノ様はお忙しいのでしょう。時にはお一人の時間が必要なこともあると思うわ」 「はあ?一人になりたいのは俺なんだけど」 「あなたは好きなときに一人になれるのでは?」 「ん、まあ、そうだけど……」  ラオハルトは何だか煮え切らない様子だったが、反論はしてこなかった。 「フィーノ様、騎士団員ではなく本当は騎士団長なんじゃない?」 「そうだよ、騎士団長」 「やっぱり……ということは、心に決めた方もいらっしゃるのでしょうね」 「いや、それはいない。婚約者もいないし」  意外だった。彼ほどの身分と外見では考えられないことだった。 「だからフィーノを狙うって?」 「まさか!フィーノ様にはもっとお似合いな方がいらっしゃるわ」  本心だった。 「ふーん、まあいいけど」  全然よさそうな顔に見えないが、そんなことより今日はラオハルトの体調が心配だった。ずいぶんやつれた顔をしている。 「今日はお疲れなのね」 「へ?まあ、疲れてはいるけど……何で?」 「声に張りがないし、顔色が悪いから。薬草茶を入れてあげる」 「げ、苦そう」 「大丈夫よ。いつも飲んでいるハーブティーとそう変わらないから」  私はお湯を沸かしに立ち上がる。いつも昼間にやって来るので、森の家の中でラオハルトと二人きりになるのは珍しいことだった。
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