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今宵の月は、遠くで黄金色に輝いていた。何となくフィーノ様を思い出す。フィーノ様はあの月のように神々しく麗しい。決して手の届かない存在だった。そんな月の下からひょっこり人影が現れた。
「あら、ラオハルトじゃない」
夜の来訪は珍しい。きょろきょろと当たりを見渡すが、フィーノ様の姿はなかった。
「今日は一人なのね」
「一人じゃ悪いかよ」
「悪くはないけど、珍しいから」
「どうせフィーノがいないからがっかりしたんだろ?」
不貞腐れるラオハルト。がっかりしたわけではなく、純粋に驚いただけだったが、訂正する前にラオハルトがさっさとしゃべり始めた。
「一人になりたいときがあるんだよ」
フィーノ様は見るからに身分が高く、自由があるようには見えない。騎士団員と言っていたが、おそらく団長クラスだろう。それくらいのオーラが普段から溢れ出ており異質だった。
「フィーノ様はお忙しいのでしょう。時にはお一人の時間が必要なこともあると思うわ」
「はあ?一人になりたいのは俺なんだけど」
「あなたは好きなときに一人になれるのでは?」
「ん、まあ、そうだけど……」
ラオハルトは何だか煮え切らない様子だったが、反論はしてこなかった。
「フィーノ様、騎士団員ではなく本当は騎士団長なんじゃない?」
「そうだよ、騎士団長」
「やっぱり……ということは、心に決めた方もいらっしゃるのでしょうね」
「いや、それはいない。婚約者もいないし」
意外だった。彼ほどの身分と外見では考えられないことだった。
「だからフィーノを狙うって?」
「まさか!フィーノ様にはもっとお似合いな方がいらっしゃるわ」
本心だった。
「ふーん、まあいいけど」
全然よさそうな顔に見えないが、そんなことより今日はラオハルトの体調が心配だった。ずいぶんやつれた顔をしている。
「今日はお疲れなのね」
「へ?まあ、疲れてはいるけど……何で?」
「声に張りがないし、顔色が悪いから。薬草茶を入れてあげる」
「げ、苦そう」
「大丈夫よ。いつも飲んでいるハーブティーとそう変わらないから」
私はお湯を沸かしに立ち上がる。いつも昼間にやって来るので、森の家の中でラオハルトと二人きりになるのは珍しいことだった。
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