16人が本棚に入れています
本棚に追加
第二話 僕の歪み
そうだあの子を作ろう。
そう決めた瞬間に僕は歪みはじめた。
「声…あの子の声を…全身が熱くなるようなあの興奮をあの子との思い出を…」
そう思いながらかき集めれるだけの声のサンプルを作り、1つずつ確認しながら聴き始めた。
いったいいくつあるのだろ…
1000も超える数の声をただあの子にはやく会いたい。
その思いだけで1日…3日…も眠らず夢中に探した。
僕は何度も声を探すたびに
その人の為に尽くしてるかのようで幸せだった。
初めての好きな人
こんなにも僕はこの子を愛しているのだと
サンプルをクリックするごとに再確認しながら感じていた。
叶恵か僕に訪ねてから1週間が経った。
彼女がどこまで進んだか見たい!と連絡きたのでまた家で会う事にした。
「お疲れ〜望ちゃん!あれからどうなった?……てか目元、めっちゃ黒いんだけど…
大丈夫?」
彼女と玄関であった瞬間、すぐに心配された。
「大丈夫、とりあえず入って」
僕はそんな言葉も気にせずに淡々と部屋に案内した。
部屋は資料とコピー用紙の山で散らかっていたがそのまま僕は椅子に座りまた声のサンプルを漁っていた。
そんな姿を見た彼女は僕に引いたような顔をしながら
「そんなになって作ってくれてるの?いやぁすごく嬉しいんだよ!自分が描いた絵が動いたら嬉しいな〜って…でも軽い気持ちだったからさ…だからさ、そんな無理してまで作らなくて大丈夫だよ!ねぇ?」
そう言いながら僕の顔色を伺っていた。
そんな彼女を見向きもしないまま
モニターを見ながら僕は話、始めた。
「叶恵、なんかやっと…
やりたい事、見つけれたんだ。
まだ声すら出来てないけど絶対に作るよ。
……ありがとう。」
そんな言葉を聞いた彼女は安堵した。
そして少し嬉しそうで寂しそうな顔をして
「そうか。なら良かったよ。
でも夢中になりすぎて無理しちゃダメだよ。
じゃあ私、邪魔になると思うから帰るね。
また出来上がったら教えて!」
と話した後、彼女は部屋を出て行った。
その間、僕は一切、見向きもしないまま作業をしていた。
彼女は外に出てたあと大きなため息をついて
「せっかく新しい髪飾り付けてきたのに
見向きもしてくれないんだ…
ただ望ちゃんと遊びたかっただけなんだけどな〜」
彼女は少し俯きながらそう呟いた。
薄暗い部屋の中、マウスのクリックの音だけが響いていた。
「これも違う…違う…違う…ねぇ君はどこにいるの?
こんなにも好きなのに僕の気持ちだけじゃダメなの?なあ!教えてくれよ!!!」
机を大きく叩きモニターの画面に大きく怒鳴った。
呼吸は乱れて過呼吸を起こし吐き気もした。
「そりゃそうだ…寝てもないし、飯も食べてない…でも…それでも早く会いたいだけなんだ。
死ぬほど寂しいんだ…会いたいよ
君の声を聴きたいんだ……」
力尽きたように机にうつ伏せになり眠ってしまった。
真っ暗闇の中に僕はいた。
「あ、またこの場所だ。
ここで彼女は助けてくれたんだ。
でもこんなになっても会えなかったんだ。
僕の気持ちなんて誰もわかってくれないんだ」
自暴自棄になり、うなだれていた。
もうやめよう、はやく忘れようそう思った瞬間だった。
彼女だった、彼女の声が聞こえたのだ。
「大丈夫…ずっと隣にいるよ。」
鳥肌が立った。
彼女だ、彼女がそこにいたのだ。
僕は大きな声を衝動のまま上げた。
「ねぇ!どこにいるの?!僕は君に伝えたい事があるんだ!たくさん話したい事があるだ
あの時のお礼も言ってない!どこにいるの!」
がむしゃらに彼女を探した。
暗闇の中、彼女の声が聞こえた方向を頼りに探した。
「ここだよ…ずっとここにいるよ。」
彼女の声がまた聞こえた。
「いないよ!ねぇ!どこ!」
必死になり呼吸が乱れていた。
「もう君と離れたくない!君と一緒にいたいんだ。ずっと寂しかった。初めてなんだ
こんな気持ち、君とずっといたいんだ!」
大きく暗闇に手を伸ばした。
その時に誰かに手を握られた。
握った瞬間、暗闇が消え
またあのぬいぐるみのある部屋に来た。
ただそこにはぬいぐるみだけじゃなかった。
彼女がいたのだ。
紫のあざやかな長い髪、透明感のある白い肌
ふわふわとした猫耳
そして誰もを魅了するきらびやかな瞳
そう…叶恵が書いたイラストの女の子だった。
彼女は僕の手を握ったまま話はじめた。
「久しぶり!やっと会えたね。望君
ずっと待っていたんだよ。」
僕は理解ができなかった。
なんで叶恵が書いた子に会いたかったのか
その前にこの子と会ったのはイラストを見た時だ。
ずっと待っていた?
なんでこの子は僕を知っているのかわからなかった。
それを聞こうとした時には彼女はもう僕の聞きたいことを知ってるように答えてくれた。
「なんで僕が君の事を知っていてずっと待っていたのか…このぬいぐるみ達、覚えている?望君が大好きだったぬいぐるみ
大好きだったのに全部、親に捨てられたよね
ぬいぐるみだけじゃないんだよ
ほら!見て君が好きな可愛い服
懐かしいでしょ!
これも大好きだったのに捨てられたよね?
そして君は他にも大事なものを捨てたよね?
何を捨てたか覚えている?
僕はそれを知っている。」
謎の言葉をきいた後にまた暗闇に戻され
僕はそこで起きた。
まだ夜中の3時だった。
時計の針の音が響く中
ヘッドホンから声が聞こえた。
「こんにちは!」
声のサンプルが1つだけ再生されていた。
恐る恐る聴いた。
彼女の声だった。
「僕が捨てたもの…大事なもの…」
彼女の言葉を思い出した後
僕の心はぽっかりと
穴が開いてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!