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第三話 あの時の気持ち
彼女に会えた。
憧れのあの人に
でもその結果、僕の心はぽっかりと何かを失った。
いやぁ元々、空いていたものを思い出したのだろう。
彼女が僕に言った。
大事なものを捨てたと
いったい僕は何を捨ててしまったんだろう
薄暗い天井を見つめて何もない虚無感だけが僕に残った。
「まあいい、声は見つけた。
後はこれにキャラクターをつけて動かそう」
とりあえず僕は自分の失ったものを思い出せないまま今日は寝る事にした。
お昼頃に起きた。
今日は本格的にキャラクターが動くように
作っていた。
でも作業をする中、彼女の言葉が引っかかっていた。
「君は他にも大事なものを捨てたよね?
何を捨てたか覚えている?
僕はそれを知っている。」
大事なもの……
どちらにせよ彼女に会わない限りわからないままだ。
だが僕の気持ちは少し落ち着いてしまった。
会えば何か変わると思っていた。
勝手に期待をしていてそのまま拍子抜けしたのだ。
「なんであんなに好きだったのに…」
気持ちも感情も失い
抜け殻のようになってしまった。
ただやるせない気持ちだけが
残ってしまったのだ。
その時だった。
ふと叶恵の事を思い出した。
このモヤモヤな気持ちを誰かに晴らしてもらいたかったのだろう。
なんでそんな事を考えたのかはよくわからなかった。
「僕だけじゃ思い出せないし、叶恵に相談してみるか」
叶恵に連絡をした。
叶恵が僕の家についた。
玄関まで迎えに行き
部屋に案内した後
僕はそのまま昨日の事を相談する事にした。
叶恵は部屋に入ると
ぎこちない感じで僕に尋ねてきた。
「望ちゃんから連絡するなんて珍しいね…
どうしたの?」
僕はそのままその問いに対して
叶恵と同じようにぎこちない感を出しながら恥ずかしながらも答えた。
「いやぁ…その…なんとなく相談したい事があってさ…
変な話じゃないよ!全然そんな気にしてないんだけど!
僕って何か昔と比べてさ
変わってしまった事あった?」
叶恵はその質問を聞いた瞬間、
大きく笑い笑顔で答えた。
「望ちゃん面白い!急に連絡来たから何か
大変な事があるかと思ったけど
そんな事で相談したの?!
それならそのまま直接じゃなくて
携帯のメッセージで聞いたら良かったじゃん
会って話がしたい〜とか言うから心配しちゃったよ!」
確かにそうだ、なんで僕はメッセージじゃなくて直接、会って話がしたいって送ってしまったのだろう。まるで僕が決心して幼馴染に何かを告白するみたいなシチュレーションじゃないか!!!
すごい恥ずかしい事をしてしまったと感じた僕は赤面した。
そんな赤面した僕を見て笑いながら
叶恵は僕の質問に対して答えてくれた。
「そうだな〜望ちゃんは昔は一緒に
お人形遊びとかしてくれてぬいぐるみとか大好きで本当に望ちゃん!って感じだっけど今の望ちゃんはなんかすごくいつも遠くを見つめて私と比べて大人っぽくなったな〜みたいな、すごく遠くに行っちゃったなって感じかな」
僕はそれを聞いて意外な解答だと思った。
叶恵が僕に対してそんな風に見えていたのかと意外な一面を感じたのだ
叶恵はそのまま僕に質問をした。
「ねぇ、逆に望ちゃんは私の事どう思ったりとかあるの?」
僕は考えながらそのまま答えた。
「そうだな、いつも叶恵は明るくて僕とは違くて気さくで誰とでも仲良くできているのがすごいなって感じだよ」
叶恵もそうなんだと思った顔をして
また話、始めた。
「そっか…私は望ちゃんと違って昔とそんなに変わってないんだね」
叶恵は少し落ち込んだ顔した。
そんな顔を見た僕はとっさに
「変わってないわけじゃないんだ!叶恵も大人っぽくなったよ!今なんて…そうだ!
その髪飾り!いつもつけてないし
めっちゃ大人っぽいすごく似合うよ!
本当に大人の女の子って感じ!」
そんな当てつけのような事を言った僕に対して叶恵は少しだけさびそうに笑って
「それ見た目の話じゃん、中身の話をして欲しかったな〜本当に望ちゃんって不器用でずるいよね」
と色々と見透かされたように言われた。
その日は叶恵と昔話をして終わった。
懐かしい話ばかりで久々に楽しいと感じた。
話が終わった後、玄関まで叶恵を見送った。
帰り道で叶恵は一人、呟いていた。
「昨日は見向きもしてくれなかったのに
今更になって髪飾りの事を言って
本当に望ちゃんはずるいよ。
また一緒に遊びたいと思っちゃったじゃん。
はやく気づいて欲しいな…」
寂しさともどかしさの気持ちのまま
彼女は夕暮れの中を帰っていった。
僕は彼女を見送ったあと部屋のクローゼットを漁っていた。
叶恵と話していた際に
「昔と比べたいなら…確か…小学生の時に未来への自分に書いた手紙とかあったじゃん!
あれ見返してみたら?私は無くしちゃったんだけどね」
その事を思い出したのだ。
「未来への自分?そんなの書いたか?
どこにあるんだ?」
手紙を探している中
1つの大きな箱を見つけた。
「この箱なんだ、こんな大きな箱、置いていたか?」
僕はその大きな箱を開けてみた。
開けてみるとそこにはたくさんのぬいぐるみと人形と手紙が入っていた。
「夢で見たぬいぐるみだ……
捨てたはずじゃ…」
思わずゾッとしてしまった。
なんせ自分の中では捨てていたと思っていたからだ。
箱の中には昔に気に入っていたぬいぐるみと叶恵とよく遊ぶ時に使っていた人形と……
未来の僕へと書いてある手紙が入っていた。
「これが言っていた、手紙か…なんでこの中にあるんだ」
ますます気味が悪かった。
そんな中、僕は恐る恐る手紙を開けて読んだ。
未来への僕へ
君がこの手紙を読んでいる頃には私のことなんてとっくに忘れているんだろうね。
君は自分を忘れる事で普通になろうとした。
周りに変と言われて、おかしいと言われて
どう?
今の生活は楽しい?
満足している?
それとも……
どうしょうもない寂しさに飢えている。
いつでも僕は君のことをなんでも知っている
だって僕は君なんだもん。
僕は君で君は僕なんだ。
あの頃はずっと楽しかったね
だから私はあの頃に戻るためにいつもの場所でずっと待っとくね。
これからもずっと君の側にいるよ。
それじゃあ……あの頃の続きをしょうか。
12月24日 もう一人の僕
カナエより
その名前を見た瞬間
僕は全てを思い出した。
吐き気と頭痛と
後味の悪い苦味が襲ってきた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!なんで!
なんで僕は!!!!!!ああああ!!!!」
そしてそのまま気を失って倒れたのだ。
あの場所に誘われるように。
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