第四話 忘れていた初恋

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第四話 忘れていた初恋

暗闇の中、僕は全てを思い出した。 あの頃を……あの淡い思い出を…… 「カナエ…… 待たせてごめんやっと迎えに来たよ。」 暗闇の中、一筋の光がさす。 そしてあの部屋に僕は帰ってきた。 ピンク色のぬいぐるみと 可愛いものだらけの部屋 そしてそこには彼女もいた。 カナエがいた。 僕の初恋の人だ。 そしてもう一人の僕だ。 紫のあざやかな長い髪 透明感のある白い肌 ふわふわとした猫耳 そして誰もを魅了するきらびやかな瞳 その瞳に僕も魅了された1人だった。 彼女を会えた瞬間、僕の瞳からたくさんの 涙が溢れていた。 泣きじゃくった声で僕は叫んだ。 「カナエ、ごめん! ずっと1人にしてごめん! あの時に僕は君と離れて後悔した。 君を忘れて空っぽになった自分に後悔した。 あの日、僕は周りから大人になれと言われて いじめられて普通に生きていかなきゃいけないと感じて君を……大切な君と離れて我慢して生きてきた! だけど君はずっと待っていてくれた! ここで!僕たち2人でずっと過ごしあった この場所でずっと待っていてくれた。 置いていてごめん。本当にごめん……」 泣きながら崩れていた僕に カナエは近づき優しく僕を包み込み 耳元で囁いた。 「大丈夫、僕はずっと君がまた迎えに来てくれるって思っていたよ。 ずっと君の隣にいた。 君が僕のこと忘れていても君はまた思い出す そんな日が来るって知っていたから だからさよならした時に言ったよね また会えるって。」 その言葉を聞いて僕はまた泣いた。 嬉しさと後悔と悲しさと ぐちゃぐちゃの感情を 彼女に全て曝け出した。 彼女はカナエ もう1人の僕だ。 僕は幼馴染の西島叶恵に憧れていた。 女の子になりたかったのだ。 叶恵は明るくて可愛くて僕に持っていない ものをたくさん持っていた。 だからこそ憧れていた。 でもそんな彼女にはなれなかった。 僕は男だった。 叶恵と遊んでいた頃は楽しかった。 自分が同じ可愛い女の子になれているようで ずっと叶恵の真似をして遊んでいた。 けどそれはずっとできなかった。 日に日に成長して声も低くなり 身体付きも変わり、周りからは 「男の子なのにぬいぐるみ持っているのは 恥ずかしいだろ」 「男なんだから泣くな!」と言われた。 そして叶恵とも徐々に離れていった。 全てを否定された。 僕の好きなものも好きな事も否定された。 そんな時に現れたのが もう一人の僕 カナエだった。 カナエは僕の心が作った女の子だ。 彼女だけが僕の事を否定せず 優しく、全てを理解してくれた。 そんな彼女と僕はずっと遊んでいた。 そして彼女に恋をした。 誰もいない中 誰も知らない誰かと話していた 僕の事を周りは気味悪がった。 そんな姿を見た親は 「あの子は普通じゃない、おかしい」 と言い、僕を否定していった。 その否定はどんどんエスカレートして 僕を空っぽにしていったのだ。 大切な…大切な思い出…大切な人… 大好きだった人も忘れ 自分自身も忘れた空っぽの人… それが今の僕だった。 「カナエ、僕は君を忘れてから怖かった。 何が好きかもわからなくてまるで別人がいるようで僕がいないようで怖った… なんで君に会いたかったかやっとわかったよ 僕なんだ……ずっと君を探していたのは心のどこかで求めていたのは僕だったんだね」 僕はカナエを強く抱きしめた。 そんな僕をカナエはまた受け止めてくれた。 優しくて懐かしい香りだった。 少し落ち着きカナエに質問をした。 「ねぇ、カナエはなんで叶恵のイラストの女の子なの?前は何というか…本当に叶恵にそっくりというか」 何気ない疑問にカナエは答えてくれた。 「だって君はこの子を可愛いと思って この子になりたいと思ったんでしょ? だから僕はこのイラストの子になった。 僕は君のことなんでも知っているからね」 そうだ。 カナエは僕の事を全部知っているんだ。 僕の知らない所も全て だからこそ彼女が好きになったのだと 再認識をした。 だからこそだ 僕は不安だった事があった。 それを聞こうとした際に もうカナエは次の質問を知っているかの ように僕の手を両手で掴んで目を見て 話してくれた。 「ここにずっといたいって思ったんだよね 僕もそうだよ。せっかく会えたのにまた離れてしまうかもって不安なんだよね。 大丈夫だよ、すぐに会える。 でもどうしても離れたくないって 考えているね。 でもね、ここにはずっといられないんだよ 起きたらまた元の世界に戻ってしまう だからね…… 望、はやく僕を作って 僕を作れば今度はこの世界だけじゃない 君のいる世界でずっと会えるんだ そしたらもう離れる事はない。 これからもずっと一緒 だから安心して」 彼女の言葉を聞いて 僕は一瞬で不安が消えた。 全てに答えてくれたからだ。 そして彼女がどんどん遠くなる。 また離れるのだろう。 離れる中、彼女の声が聞こえた。 「望、大好きだよ」 その言葉を最後に 僕はまた暗闇へと消えていった。 ピンク色のぬいぐるみと 可愛いものだらけの部屋の中 彼女は一人、ぬいぐるみに呟いていた。 「今度は近くでどんどん君が 壊れていくところが見れるんだね… 最後の君はどんな顔をしているんだろう まあ知っているんだけどね。」 彼女はぬいぐるみを見ながら 不敵な笑みを浮かべていた。 深夜2時 僕は起きてすぐに取りかかった。 そうだこの感覚 この感情が僕を勇気づけ動かしてくれる。 無心で作業に取り掛かる。 カナエに会うために それから1ヶ月が過ぎ 夏休みが終わりに近づいていた。 「あとはこの声を設定して…」 出来上がった。 僕だけの恋人… 「カナエ…やっと会えたね」 音声ソフトを再生させる。 そしてカナエは話した。 「望!大好きだよ」 最高に狂った恋が今、幕を開けた。
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