0人が本棚に入れています
本棚に追加
冬に向けて
寒くなってきた。
急に空が澄んで、月や星が綺麗に見えてきた。
高校2年生のナオミは冬の星座と言う歌が大好きだ。
まだ冬でもないのに、つい星を見ると口ずさんでしまう。
********
作詞:堀内 敬三
木枯らしとだえて さゆる空より
地上に降りしく 奇しき光よ
ものみな憩える しじまの中に
きらめき揺れつつ 星座はめぐる ♪
*********
澄んだソプラノで、塾の帰りに一番星と半分のお月さまを見付けたナオミは、つい口ずさんでいた。周囲には誰もいなかった。一人で帰るのが怖かったと言うのもあって、歌を歌った。
今も。学校などで歌われているのかは知らないが、ナオミの母がこの歌が大好きで、ナオミも覚えてしまったのだ。
ふいに誰かに肩を叩かれた。
同じ塾の、同じクラスの・・・・誰か。
「いい声だね。それに、冬の星座知っているなんて、驚きだな。」
その男子生徒はナオミと並んで歩き始めた。
「うちの母さん、その歌大好きなんだよ。冬になるといつも歌ってる。僕も好きだよ。綺麗な歌詞と綺麗な曲だよね。」
「私のお母さんもこの歌好きで。それで覚えちゃったし、私も大好きなの。冬の澄んだ空の感じや、星座が回っていく様子まで目に見える様で。」
「あぁ、今は、『しじま』なんて、どこにもない感じだけどね。」
「そうね。でも、少なくとも、今の時間って、どこの家庭も憩いの時間なのじゃないかな。」
「そうだね。受験生を除いてはね。」
二人で顔を見合わせてクスクス笑った。
空からは星の精が二人の遭遇を見ていた。
『この二人は、空を見上げる人の少なくなった今の時代の中で、少なくとも私たち星の事を見てくれているのだわ。』
星の精は嬉しくなって、小さな星が先端に着いた銀色の細い杖を振った。
目に見えない程の小さな星屑が二人の上に降り注いで、二人は、これからの人生を星に見守られて、一緒に歩いていく同士となった。
ナオミも毎日の塾の帰りが、もう、怖くはなくなった。
秋から冬には、幾度となく、二人は小さな声で冬の星座を歌う。
春から夏は、まだ帰りも明るいので、二人は楽しくおしゃべりをしながら帰る。
でも、明るくても星は空で瞬いているのだ。
やがて、二人は希望の大学に入って、宇宙工学を学ぶ同士として、人生を一緒に歩いて行くのだった。
【了】
最初のコメントを投稿しよう!