第2章 綻び

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「なんだか適当な人なのかと思ったけど、細かい性格だよね〜。吉岡さんは結構おれのアレンジ気に入ってくれたんだけどな……」  保住が席を外した途端、大堀はぶ〜と口を尖らせた。それよりも面白くない顔をしているのは安齋だ。 「おれの書類が気に食わないって、どういうことなのだ。そんなこと一度も言われたことがないぞ」  かなりプライドが傷ついたのだろうか。不機嫌さが隠しきれていない。元々、攻撃的なところがある男だ。 「気に食わないって言ったのは佐々川課長だろう?」  田口はそっとつけ加えるが、安齋に睨まれる。 「そんなものはどうだっていい。誰が言ったかどうかなんて問題ではない。そう言われたということが問題なのだ」 「安齋。今回の件はお前が独断で走ったばっかりに起こったことだろう? 怒るところか? 一人よがりは大概にしろ。むしろ反省してだな……」 「田口。お前はいつまで室長におんぶに抱っこする気だ?」  安齋は田口を睨んだ。 「確かに室長に一々確認をして進めれば問題ないかもしれないが、今回の書類は大した内容ではないのだ。室長の決済をもらうほどのものでもない。そんな小さなものまで室長の確認がないと進められないなんて、それでは仕事がいつまでたっても終わらないと言うことだ。お前は室長に頼り切りだ。お前は一人前になりたくないのかよ」  ——そんなこと。それはわかっているけど……。 「安齋、そんなきついこと言って田口に八つ当たりしたって仕方がないじゃない。田口だって一生懸命やっているんだし。ただおれたちとは育ち方が違うんだよ」 「にな」 「また。そういうこと言わない。田口は保住室長の秘蔵っ子なんだし。仕方ないよ。今回だってわざわざ連れて異動してきたんだし。そんなことを田口に言ったって仕方がないじゃない」  大堀の言い方は庇ってくれているようだが、別な意味にも受け取れる。田口は黙り込んだ。  そう思われているということは理解していた。しかし配属されてさっそく同僚からそういう言葉を投げかけられるというのは厳しい現実を突きつけられた気分だ。 「……」 「おれたちは同僚であるがライバルでもある。悪いがおれはお前たちとは相入れるつもりはない。気安く話しかけるなよ。特に大堀」 「え! なに言っているの? 酷いね。本当、酷い」  安齋はしらっと言い放つ。 「おれはこの部署は足掛けだと思っている。ここで成功すれば、もっと高みを目指せる。お前たちは、足を引っ張ってくれるなよ」 「安齋……」 「本当、嫌な奴〜。それはおれのセリフ。おれは、副市長目指しているんだから! 二人になんか負けないもんね」 「ちょ……。張り合うところか」  田口はため息だ。 「野心のないやつは引っ込んでろ」 「そうだそうだ」  また妙に気が合うようだ。は。  田口は黙り込むしかない。  同期とはやはり難しいようだ。  文化課振興係の頃が懐かしい。みんなが同志で、協力し合って和気あいあいと仕事をしていた。あの雰囲気は、保住が作っていたと思っていたが。彼がいても今の場所はそう居心地が良いわけではない。自分も協力しなくてはいけないのに。  安齋と大堀。たった二人なのに。なんともできないだなんて——本当に力不足だと思った。  ギスギスした雰囲気も嫌だが、不甲斐ない自分にも嫌気がさしていた。
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