第1話 バブゥッと生まれたこの世界

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第1話 バブゥッと生まれたこの世界

 ママンの胸元からダイヤモンドのネックレスをむしり取った直後、あたしは前世の記憶を思い出した。      前世のあたしは21世紀を生きるキャリアウーマン。  趣味は宝石店めぐり、給料の使いみちはもっぱら宝飾品の購入。 『イケメンに抱かれて眠るくらいなら、胸に金塊を抱いて眠りたい』 『満天の星空を見上げるよりも、宝箱いっぱいの宝石を見下ろしていたい』 『五つ星レストランで舌鼓を打つ暇があれば、ジュエリーショップのショーウィンドウを眺めていたい』  それがあたしの人生だった。    あたしの人生最後の記憶は、26歳のある春の日。  趣味の宝石店めぐりの最中に、強盗事件に出くわしたのである。包丁を手にした覆面強盗犯たちは、宝石店のショーケースを叩き割り、宝飾品を次から次へとカバンの中に詰め込んだ。  そのとき、ダイヤモンドの指輪が1つ、ころりと床に転がり落ちたのだ。    あたしはとっさに、そのダイヤモンドの指輪を拾いあげた。どさくさに紛れて指輪を盗んでやろうだとか、そんなことを考えていたわけじゃない。  ただあまりにも綺麗な指輪だったから、強盗犯にくれてやるのが惜しかっただけ。  そうしたら運悪く、その現場を強盗犯の1人に目撃されてしまった。大切な獲物を横取りされたとでも思ったのか、逆上した強盗犯は包丁を振りかざしてあたしの方へと向かってきた。  胸にするどい痛みを感じたところで、あたしの記憶はプツリと途絶えている。
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