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それは自分が一番嫌っていて彼が最も嫌がること。
「落とさないで」
「るせぇよ」
それでも今日は馬鹿みたいにアキが恋しくて、その分だけ彼に八つ当たりしたくなる。
背中と足裏に手を差し入れられるから首に抱きつく。そうすれば雑に抱き上げられてなんの配慮もなしにズカズカと歩く男。
「ぅう、もっと丁寧に」
チッ
「……ベッドに押し倒してやろうか」
再び響いた舌打ちと共に響くのは何だか治安の悪そうな言葉。
でも音は低くて妙に色がある。
アキよりいくらか背が高くて、ひとえで男前で。
ふふ
でも優柔不断で意気地なし。
やれるものならやってみればいい。
それにその気ならここには来ない。
とっくに部屋に女を連れ込んでいる。
「慰めてくれるの?」
思わせぶりに目を合わせて首を傾けてみる。
「ムカつく」
そうすればわかりやすく下がる口端。
勝気に唇をつり上げれば端正な顔がこっちにグッと近づいた。
「何よ、そこは否定しなさいよ」
「はぁ?」
「私だって弟を相手する趣味はないわよ」
「……誰が」
ん?
挑発するように鼻先がつくギリギリまで唇を近づけてみたけれど
ほら
ヤツは迷わず身を引くのだ。
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