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こいつの顔は赤くならないから面白みがない。
真顔のままの彼の顔は私とは逆の方向に向く。
残されたのは白い首筋。
「……よくそんなんで女にモテるわよね」
月明かりも相まって白い肌がますます血の気を失っているように見えた。
吸血鬼みたいだ。
「ほら、進みなさいよ」
ツンツン
いたずらに動脈のあたりを突くと聞こえる大きなため息が聞こえて来た。
だけれどそのままバルコニーへ足は進む。
近づいてくる銀色の光。
首に回した腕を緩めて月が反射してキラキラと光る水面を見つめるとめんどくさそうに抱え直されたけれど気にはならなくて。
昔は私の方が背が高かった。
中学生までチビだといじめられていた彼は高校になると一気に大きくなって、今ではもう届かない。
抱き上げられた時とは違ってソファに降ろされる手つきは丁寧で。
「満足?」
「うん、」
でも雰囲気は全然ロマンチックじゃない。
男は粗大ゴミでも運んだかの様な嫌そうな顔をしてまたとなりに座るのだ。
さっき自分がだらしなく寝そべっていたソファ。
そこに人が1人増えたなんてなんか変な感じで。
「綺麗だな」
声のする方に顔を向ければ深く腰掛けた彼が水面をじっと見つめていた。
「海に天の川があるみたいだ。」
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