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それでも動く気には到底なれなくて無視を決め込む。
ピンポーン
「……」
トントン
銀色の水面を瞳でいっぱいにして現実逃避。
けれどチャイムが効かないとわかったのか追加される戸のノック音。
あぁ、誰が訪ねてきたかわかった。
こんなことするヤツは
「おい、いるんだろ?」
うるさい
一人しかいない。
「ナツ」
戸の外から聞こえるのはくぐもった音。
ぶっきらぼうな男の低い声。
無意識に眉間に皺が寄るのは当然。
「あけろ」
何時だと思っているのだ。
近所迷惑にも程がある。
でもヤツは私が出てくるまで扉の前に立ち続けるのだろう。
はぁ
こんな時くらい一人にしてくれないか。
思うけれど叶わない。
トントン
また聞こえてくるノック音。
しつこい。
ソファから転がり落ちるように降りて部屋の中に戻るとますます気分は重くなった。
一人でで使うには広すぎる部屋。
寝室とリビングが別れたデラックスルームは綺麗なのに薄寒い。
部屋は完全に電気を落としているから暗かったけれど目が暗闇に慣れてくると月明かりさえ眩しく感じられた。
だから容易に玄関にたどり着けてしまう。
「ナツ」
「……」
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