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隣りに腰掛けた彼が缶のプルタブを勢いよく引く音がした。
受け取らざるを得なくなった缶。
持ったままソファにもたれかかるとごくごくと一気にお酒を呷る彼。
上下する喉仏。
広い肩幅、浮き出た鎖骨。
全て飲み込めずに少しだけ口元を垂れる液体。
「…なんか着たら?」
視線に気がついたのだろう。
唇を拭った彼が私の格好を見てこっちに呆れたような目を向ける。
「……」
それが若干男っぽくて、熱を持っていることは知らないふりするのがお約束。
自分の方に視線を戻すと目に入るのはどこをどう見ても下着姿。
レースのあしらわれた黒いブラにショーツ、それからおんなじ色のシルクのキャミソールを一枚被っただけの心許ない格好。
どう考えても恋人でもないこの男に見せるべきではない。
「嫌ならでてけばいーでしょ。」
「…はいはい」
これであぐらをかいて座っているのだ。
さぞかし目の毒だろう。
でも今はどうでも良かった。
はぁ
姿勢を正すわけでもなくもらった缶を彼に差し出せばまたプルタブを引く軽い音がした。
「ん、」
「…ぁりがと」
開けられた缶に口をつけると広がる苦味と炭酸のしゅわしゅわ感。
ビールは特別好きなわけじゃない。
それを彼も知っている。
でもあえて勧めたのは私の心がこの味より苦いからで。
「うまい?」
「…ぅん。」
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