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ウソを吐いて隣の男に寄りかかる。
でも感じる温もりは今私の欲しいものじゃない。肩幅、身長、香水の匂い、全てが違う。
あの人だったらこんな時、真っ先に頭を撫でてくれるのに。
はぁ
「アキじゃない」
肩に頭を食い込ませると小さな悲鳴が聞こえた。
「当たり前だろ?らしくない。」
らしくない。
そんなの私がよく知っている。
ヤツにあの人の代わりを求めるようなバカなこと、したことがない。
「…触んないで」
「兄貴ならいいくせに」
「あんたはアキじゃないでしょ、」
反対にこの男はいつまでもあの人を追いかける。
何歩も先を涼しい顔で歩いていく兄を敬いつつも羨ましがる。
慣れた手つきで肩に回る腕に舌打ちすると妙に優しく髪を撫でられた。
「強がり」
耳元で響くのは妙に艶のある声。
この兄弟のことはよく知っている。
兄の方はいつだって優しくて賢い。
反対に弟は不器用なのに、こんな時はひどく甘い。
「……」
らしくないのはそっちの方じゃないか。
丁寧にすかれる髪の毛に通る指の感覚を感じながらビールにまた口をつける。
苦かった。
でもさっきより心はマシで。
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