photogenic

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 これからの未来のなかで、ぼくらは何度思い返すことになるだろう。仲直りをかねて巡った世界旅行……あの夢のような日々を――  飛行機のなかでジブリ映画をみていたら、いつの間にか嵐は去ってくれた。  妖精の煙突がある洞窟ホテルで体温を分け合った。  バッファローのスープにいどみ、幻想的なオーロラをデジカメに撮った。  最果てのモニュメントバレーで、沈みゆく夕日をレンタカーのボンネットから眺めつづけた。  虹のアーチが架かった悪魔の喉笛に突進する、ツバメの群れに言葉をうしなった。  それから、それから……  ほんとうにいろんな場所に行った。かぞえきれないほど写真を撮った。時間は駆け足で過ぎて。びっくりするくらい楽しくて、それらはきっと、きみがいなければ成立しなかったものばかりで。  そして、そんな最中……まさに青天の霹靂だった。突然きみに降りかかった腹痛、目眩と眠気。それをきっかけに、ぼくらの自由で刺戟的な大旅行はひとまず幕引きとなった。ぼくらが手帳に書き殴ったチェックリストの、ちょうど半分をクリアしたところだった。  きみは困ったような笑みで謝ったけれど、謝る必要なんてこの世になかった。ぼくは、ありがとうを告げ、そっとかのじょにキスした。いつか、また――世界を踏破する続きをしよう。  帰りの飛行機、雲をぬけて本国の空港に下りるとき、うっすらと脳裏をよぎった計画、未来に託したその続きは、あの国から始めよう。風車群を背景にどこまでもひろがる圧巻の花畑、あざやかなグラデーション。あの景色から始めよう。  また二人で……ううん、つぎに行くときは、きっと――
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