photogenic

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 テレビを見るともなく見ながら、ザッピングをくり返す。テレビの音がしずかになるタイミングで外の庭からきこえる、虫たちの控えめなオーケストラ。  きちんと閉まってない窓。ときどき思いだしたようにカーテンは揺れ、そのたびにリビングのようすが窓に映る。小石を観察しているかのじょの、興味津々な表情。エアコンの除湿がもったいないけれど、この空間を壊すのがこわくて動けないでいる。 「あんまり興味のある番組ないかも」 「あと五分くらいで、連続ドラマ始まるよ。あの、サスペンスっぽいヒューマンラブ。毎週欠かさず観てるでしょ、きみ」 「あれってきょうだっけ?」 「あんなに好きなのに、どうして忘れられるのかねえ」からかうように呟く。視線は小石に向けられたまま。「こんなに滑らかで丸っこいの、めずらしくない? 宝石みたいにきれいだよ。向こうが透けてみえそう」  なつしい記憶がよみがえる。小学生のときの授業、あれは図工だったのかな――各々が公園で拾った石に絵を描いたこと。それは提出したあと、しばらく教室のロッカーの上に飾られていたけれど、ぼくはひと目にふれるのをきらい、じぶんの作品だけこっそりポケットに隠していたっけ。  ずっと忘れていた――けれど、鮮明に思いだせる記憶。意識だけタイム・スリップしているような感じ。 (けっきょく、あの石はどうしたんだっけ?)  うわの空でそんなことを考えていたから。視界の隅、キッチン・カウンターをみつめるかのじょに気づき、ぼくは毎夜のルール――ふたりでひと粒ずつ、キャンディを舐める――に思い至り、 「小石のお礼に、キャンディをあげたんだ」と、愚かなぼくは正直に伝えてしまった。  ちょうどポケットに入れていた、駄菓子屋さんのフルーツキャンディ。おとこの子の嬉しそうな笑みをわすれられず、その感動をかのじょとも共有したいという純粋な感情に違いなかった。……だから、 「え?……キャンディ、あげちゃったの?」  かのじょに見つめられたとき。歴史公園のアジサイの群生より華やかなかのじょの瞳が、満天の夜空よりおおきく見開かれ、ぼくを捉えるまで、みずからの過ちに気づけなかった。
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