3人が本棚に入れています
本棚に追加
花言葉
質素な部屋、窓際のベットの上で不健康な程に白い肌の腕には点滴の痕、細いサラサラとした黒髪には白髪が混ざっている
原因不明の病気で過去は、小麦色の肌で傷を作って走り回っていた彼女は見る影もない、俺はそんな彼女に毎日花を送る、その日花屋で一番美しいと思った花を、今日はピンクのガーベラの花束を持って彼女の部屋に行く、俺が送った花が綺麗に飾られた質素な部屋の真ん中に不健康な程にやせ細り青白い君が居る、でも俺には昔の小麦色の君に見える気がする
花を渡せば君はため息を付く
「早く死にたいわ」
これは彼女の口癖、原因不明の病気になって、やせ細って行く彼女、病院には入っていたが治療法がないと言われ、母子家庭の彼女はいつまでも病室を借りるお金もなく実家の幼い頃から使っている部屋で安静にして暮らしている、病気が続くほどに彼女は絶望して行き、昔使っていた物をどんどん捨てていって今は必要最低限の物と俺の送る花だけが部屋を彩る
俺は決まったような言葉を返す
「そんなこと言うなよ、きっと治る、だから頑張ろう」
俺がそういえば呆れたように君は笑う
「希望を持ってどうするの、私の腕はどんどんやせ細っているのに」
暇な部屋でやる事は本を読むだけタブレットを操って画面を消し、彼女は枕元にタブレットを置く
ゲームでもすればいいのに面白いと感じれないからと読書に勤しむ彼女、そんな彼女に今日も俺は今日あった事を話す、この時間だけが彼女が外を感じる時間、狭い花の海の部屋から飛び出した気分になるように語って話す、読書をするのもこの部屋から飛び出した感覚を味わうためかもしれない、
楽しく会話をして彼女の母親が今夜もご飯を作ってくれた。仕事終わり、花屋に寄って彼女と話して、彼女と食事をする、それが俺らのルーティーン
男よりも強いと自慢していた筋肉はもうほとんど無い、箸を持つのもだんだん危うくなっている、けれど彼女は動く限りは自分でできることは自分でしたいと、食べされられる事を拒否する
勝ち気でスポーティーで男勝りで、女にも男にも人気のあった美人で元気だった彼女、日に焼けることも厭わず走り回っていた彼女は今は青白く窓際で外を見て、走り回る自分を夢想しながら過ごしている
食事をとればあまり長くこの部屋には居ない彼女はすぐに寝る体制に入るから
「おやすみ、じぁまた明日来るね」
「貴方はまだ私の明日を期待する」
その言葉に優しく返す
「君は必ず元気になる」
そう言って俺は部屋を出る時彼女の声がする
「私は明日が怖いわ」
彼女の弱音を聞こえないふりして帰るのだった。
翌日、いつも通り仕事を終えて、飲みに行くのだと言う同僚に彼女によろしくと茶化されながら帰る、いつもの花屋に寄ろうとしたら今日は休みだったらしい、何かあったのだろうかと思いながら、花をどうしようと近くのスーパーの花コーナーを見に行く、花屋には劣るが割と品揃えがある店だ。そこで小さく白い可愛らしい花を見つける、スノードロップと書かれた花、これが良いだろうあまり見ない花だし可愛い、鉢植えもオシャレだし鉢植えなら長く持つだろうとその花を手に取る
俺はついでに2つ入りのショートケーキを僕達用とお母さんと義妹さんのぶん、2つ買って持って行く、家についていつも通りでお母さんに迎え入れられる、
「あら、今日は鉢植えなのね、可愛い花ね」
それに俺はケーキを出しながら言う
「いつもの花屋さんが休みでして、変わりが無いかとスーパーに行ったら置いてたんですよ、スノードロップって花らしいですよ、ケーキも買ってきたので良かったらどうぞ」
俺がケーキを渡すとお母さんは微笑む
「二人のぶんだけで良かったのにありがとう、貴方が毎日来てくれるからあの子も幸せね」
そんなお母さんに俺はドキドキしながら相談をする
「その、俺、もう仕事も安定したし、柚月を養えると思うんです」
「まぁ!」
「今週の日曜日に指輪選びを手伝ってもらっていいですか、それまでに気づかれないように柚月の指のサイズを測ってもらえたりしてもらえますか?」
その言葉にお母さんは、少し難しい顔をする
「本当にあの子でいいの?私が言っちゃいけないとは思うけど苦労する人生になると思うわ」
お母さんの言葉に俺は笑う
「柚月の為にするなら苦労だってなんだってします、柚月が生きてて笑ってくれるならそれでいいんです」
その俺の言葉にお母さんは微笑む
「あなたが居てくれて私も幸せだわ、柚月をよろしくお願いします、ぜひプロポーズ、協力させてください」
「ありがとうございます」
きっとプロポーズすれば彼女は拒否するだろうでも俺は粘り強い、彼女が折れるまで何度でもプロポーズすればいい、彼女が生きているのが俺の幸せなのだから、
お母さんが「後でスプーンとお茶を持っていくわね」と言ってくれて、俺は柚月の部屋に行く
いつも通り、暗い窓はカーテンがされて柚月はタブレットで読書中
「柚月、来たよ」
俺の声にチラッと俺を見てからタブレットを操作して枕元に置く、俺は柚月のベット脇の椅子に座る
「今日は鉢植えの花にしてみたんだ、どうかな?」
最初はいつも通りで興味なさそうな顔をしていたがスノードロップを見て目を大きく開いた後に破顔して微笑む
「スノードロップだぁ!」
今までに無いほど喜ぶ柚月
「好きな花だった?」
俺がそう聞けば柚月は嬉しそうに笑いながら言う
「ずっと欲しかったの!」
それはそれは幸せそうな楽しそうな、昔の活発な彼女に戻ったような表情に俺も嬉しくなる、そこにお母さんがスプーンとお茶を持ってきてくれた。
「あら、柚月、嬉しそうね」
「うん!ずっと欲しかった花だから」
柚月の本当に嬉しそうな顔に俺とお母さんは目線を合わせて笑う
「そんなに欲しかったの?」
お母さんの言葉に柚月は笑う
「スノードロップの花言葉知ってる?」
「いや」「いえ」
俺達の言葉に少し考えて柚月は悪戯っ子のように笑う
「希望だよ!」
「いい花言葉だな」なんて言って俺達は幸せな時間を過ごした。昔のように明るい楽しそうな彼女に俺とお母さんは嬉しくなって長いこと話し込んでしまった。
帰りも嬉しくてまた明日スーパーによればスノードロップがあるだろうか、花屋が空いていたらスノードロップを置いているだろうかと考えながら俺は家に帰った。今日は幸せだった。柚月が幸せそうだったから。
だが次の日
仕事に行こうと朝の準備をしていたら電話がなる
お母さんからだ、俺は電話に出る
「雅也君、落ち着いて聞いてね」
「どうされたんですか?」
重く悲しそうな声のお母さん
「柚月が・・・
死んだわ」
「は?」
俺は唖然とするしかなかった。
会社を休みお通夜に出席させてもらった。
棺に眠る柚月は幸せそうな笑顔を湛えている。
まるで起きているようだ。夜の内に点滴チューブを切ってその先をベット脇のトイレに投げ入れていた、そして血が逆流して出血多量で彼女は死んでしまった。
なぜそんな事をと思えば遺書が残っていたらしい、親族席に挨拶をする時妹に掴みかかられる
「アンタは花言葉知らなかったんだよね」
なんの事かわからない
「どの花言葉のことだい?」
掴みかかる妹にお母さんが辞めなさいと諌め、俺に聞く
「雅也君、スノードロップの花言葉は?」
「え?希望ですよね、柚月が言ってましたし」
わぁっと妹がお母さんに抱きついて泣き崩れる、お母さんは、「そうよね、そうなのよね」と言って泣くのを我慢している
「雅也君は柚月と結婚するつもりだったのにこんな事になって残念だわ、」
俺は何となくスノードロップに原因があるのかと察する
「花言葉が違ったんですか?」
俺がそう聞けばお母さんは、ゆっくり首を振る
「間違ってないわ希望よ、でも人に贈ると言葉が変わるの」
「変わる?」
「【貴方の死を望みます】に変わるのよ」
俺は崩れ去る、そして昨日の柚月を思い出すあの幸せそうな顔はあの嬉しそうな顔は、死を許されたからだったのか、
「違う!俺は!俺は!君と!この先も!」
崩れ落ちて床に向かって叫ぶ俺をお母さんが抱きしめてくれる
あぁ俺は何も知らなかったんだ、花言葉がそんなに重要だなんて、花言葉にそんな悲しいものがあるだなんて
どんなに苦労してもこの先も君と、生きたかったのに・・・・・
最初のコメントを投稿しよう!