【かぐや姫】

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それから数十年の月日が経った。 私は独り、その長い時の流れの中で、ずっと考え続けていた。 輝夜は何故、満月の夜に自分の姿を見つけてもらいたかったのだろう?と。 しかも満月の夜だけ?何故? そんな私が哀れなように見えたのか、やがて老人会に入らないかと何人かに声を掛けられるようになった。 私は気が乗らなかったが断るのも気が引けたので老人会に参加する事にした。 さて、この場所で何をしよう? 私は少し考え、ずっと大切に持ち歩いていた一冊の本を鞄から取り出した。 その本は『竹取物語』。 ガヤガヤと騒ぐ老人会の人々の中で私は淡々と、その本を読み上げて言った。 すると一人二人と私の朗読に耳を傾けだし、やがて皆んなが私が読み上げる話に食い入るように耳を傾けた。 そして…… 私が読み終わるとワッと歓声が上がった。 「いや、懐かしいのう」 「随分と古い話で忘れておったわ」 「ほんに、ほんに」 と、老人会のメンバーが、そう口々にした。 それを聞いた私は、そうか!と妙に納得した。輝夜、、かぐや姫は、この世界の人々に自分の物語を覚えてもらえる事で、それがパワーの源となり月の光に影響を与えていたのではないのか……と。 竹に子を宿し続けたのは『私を忘れないで』という強い想いからではなかったのか? 昔は皆んなが忘れていなかった物語。 それが忘れ去られようとしている事に、焦りと寂しさが増し輝夜は自ら、この世界に来て自分を見つけてくれる人を待っていたのではないのではないのか? そんな考えが進むにつれ私は胸が熱くなり思わず熱くなった目頭を指で抑え、涙を拭った。 それでは何故、満月の夜? さあ?それは私にも分かりません。 何せ満月に(まつ)わる摩訶不思議な物語りは沢山、、ありますものね? あなたは月夜に(まつ)わる物語りと、どれほど遭遇しましたか? 【了】
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