祖母の死

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 出産後、比較的早期に復帰できたのは、もちろんひなの面倒をみてくれた祖母と知美さんと叔母のおかげだった。  現在三歳三ヶ月になったひなは、保育園に通っている。  毎日くたくたになりながらお迎えに行っても「ママおかえり~」と保育室から迎え出てくれるひなの存在があるだけで幸せなのだ。  大輝に送ってもらって、マンションに帰ってきた。 「杏子、俺しばらく泊まろうか?」 「大丈夫だよ。大輝だって忙しいじゃない」  一つ年下の大輝は大学病院で外科医をしている。  週2回の当直があるし、緊急オペで呼び出されることもしょっちゅうだ。  気持ちは有り難いが、とても迷惑をかけられない。 「だだ、とまる? ひなとおふろはいる? ひなね、あわあわのおふろするの。ぶどうのにおいがするんだよー」 「おー、いいな。ぶどうの泡か。紫色か?」 「ううん、しろ。すっごくいいにおいなの。でもたべちゃダメなんだよ?」 「だだは大人だから食べないぞー。ひなもお腹が痛くなるからたべたらダメだぞ?」  ひなは小さいときから大輝のことを「だだ」と呼んでいる。  研修医の間も時間を見つけてはひなの面倒をみにきてくれていたので、とても懐いていた。 「ひな、だだはお仕事があるからね。また今度来てもらおう。土曜日とか日曜日がいいね」  名残惜しそうにしている二人だが、今日はまだ水曜日だ。  明日まで忌引きの私とは違って、大輝には仕事がある。  迷惑はかけられない。 「また今度当直のない週末に」と約束して、大輝は帰って行った。  
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