どんぐり飴の思い出

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どんぐり飴の思い出

 口の中がやたらと甘い。    ――――――――そう思った瞬間、俺は別の場所にいた。   「……ここ、どこだ?」  辺りを見渡すと、おそらくどこかのマンションのリビングダイニングであろう場所に俺はいた。  さっきまでヘブンリーゲトブリッジホテルの最上階で食事をしていたはずなのに。  早く帰りたいと思っていた俺の願いが叶ったのだろうか?  にしても、全く知らない家に突然飛ぶって、そんなことあるのか?  一体ここはどこなのだろう?  手元を見ると、カラフルな飴の入った瓶があった。 「これ……どんぐり飴?」  杏子が好きだった縁日のどんぐり飴だ。  ふと、よみがえる思い出。  それは元カノの杏子と初めて二人で行った縁日でのこと――――。  ◇ ◇ ◇   元々大勢で群れるのが苦手で、クラスに馴染もうとしなかった俺に、全く壁を作らずに話しかけてくれたのが、たまたま隣の席に座っていた杏子だった。  小柄で丸顔。黒目がちな目はいつもキラキラしていてふっくらした唇は淡いピンク色。典型的な誰からも好感が持たれるタイプだ。  しかも誰とでも仲良くできて、ニコニコと明るい杏子は俺とは全く違う世界の人間だった。  そして俺のような面倒くさいヤツにも、平気で世話を焼いてくるお節介な女だった。  後で聞けば、幼い頃に母親を亡くして、お祖母さんに育てられたという。  だからなのか、このほっこりするようなおばあちゃんくささは……と妙に納得したものである。
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