どんぐり飴の思い出

2/7
前へ
/198ページ
次へ
 だいたい、『杏子(あんこ)』なんて、ふざけた名前だし。  クラスの女どもが「あんこ」と呼んでいるのを聞いて、ニックネームなのかと思ったら違った。 『『わくいきょうこ』じゃないのか?」 「『わくいあんこ』だよ」 「……甘そうな名前だな」 「そうなの! 可愛くて気に入っているの。おばあちゃんが付けてくれたのよ」    甘いのは苦手なんだが……。と思いながらも「……いい名前だな」と言ったら「鷹也って名前も格好良くていい名前だね!」と返されたことがある。  杏子の明るくてポジティブなところが俺にはなくて、妙に惹きつけられた。  女の名前を可愛いと思うなんて、初めての事だった。     女は鬱陶しいものと思っていた俺だったが、杏子だけは違った。近くにいても全く気にならない。むしろ傍にいるのがあまりにも自然で居心地が良かった。  いつのまにか杏子には心を許していて、俺たちはごく自然に距離を縮めた。    そして一学期の終業式の日、学校の近くの神社で夏祭りがあることをたまたま知ったのだ。  「行ってみる? ……今日、夏祭り」  それが精一杯の誘いだった。  クラスメイトから、特別な関係への第一歩目。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

521人が本棚に入れています
本棚に追加