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あの日、杏子はおばあさんに着付けてもらったと言って、淡いピンクの浴衣を着て来た。
お参りが済んで縁日を回っていると、杏子がどんぐり飴の屋台の前で立ち止まった。
「わー! どんぐり飴だ! 私、昔からどんぐり飴が大好きだったの!」
「……じゃあ選べよ」
「え? 買ってくれるの!?」
「好きなんだろう?」
「うん! ありがとう~。どれにしようかなー」
そう言ってカラフルなどんぐり飴を五個ほど選んだ。
「それだけでいいのか?」
「うん」
まあ、こんなに大きな飴だ。一粒食べればずっと口の中に残りそうだし、少しで十分なのだろうと納得する。
杏子は金魚すくいの持ち帰りビニールのような、透明の袋に入れた飴玉を嬉しそうに眺めていた。
「食べたいなぁ」
「食べればいいだろう?」
「目でも楽しみたいんだよ。どんぐり飴って可愛いでしょう?」
「は? 飴が可愛い? ……俺にはよくわからん」
「もー。鷹也は情緒がないなぁ……」
「飴は飴だろう? 食べてこそだ」
そう言って袋を取り上げた俺は、飴を一つ取り出し、杏子の口に放り込んだ。
「ん……ちょっと……なにひゅるのひょ……」
「ハハッ」
あめ玉が大きすぎてまともに喋れていない。
それに、片頬がぽこっと膨らんでリスみたいになっている。
「クックックッ……」
「もぉ~」
口をもごもごさせながら、怒ったような困ったような様子の杏子が可愛くて、目が離せなかった。
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