どんぐり飴の思い出

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「ど、どうして? どうして――」 「……飴玉の味を確かめるため?」 「普通、そんなことしないよ。く、く、口移しなんて……」 「したかったから?」 「したかったからって……わ、私、初めてだったのに……」 「……そっか」  杏子、俺が初めてだったんだ。  そう聞くとじわっと喜びがこみ上げてきた。  良かった。俺と同じだ。 「……なに笑ってんの?」  ギロっと睨んでくるその顔でさえ可愛いと思う。    二人で夏祭に来られただけでも嬉しかったのに、杏子は浴衣を着てきてくれた。  杏子の浴衣姿は眩しくて、誰にも見せたくないレベルの可愛さだった。  杏子を俺だけのものにしたい。  浴衣姿の杏子は俺の独占欲に火を付けた。 「……じゃあ、ちゃんとする?」 「へ?」 「さっきのは単なる口移し。だって……イヤなんだろう? あれが初めてのキスって、納得していないんだろう?」 「な、納得って……そうじゃなくて……その……」 「何?」 「……ど、どうして? どうしてこんなことするの?」 「どうしてって……」  ああ、そっか。夏祭りに誘うイコール意思表示だと思っていたが、伝わっていなかったのか。  当たり前か……はっきり言ってないんだから。先走ってしまったようだ。   「……きだからに決まってる」 「え?」 「だから……」  改めて言うとなると恥ずかしさがこみ上げで言葉に詰まる。  
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