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次の日、僕は、再び先生に呼び出された。
どうやら、もしもフォンは、ボタンを押すだけでキャンセル出来る様に、仕様変更をしたらしい。
お蔭で、僕らは今、普通に横文字が使用できる。
やはり横文字が使えないのは、不便だなと、昨日つくづく実感させられた。
さて、今日も行きたくない、マッハ先生の家に行くとするかと重々しく靴に足を滑り込ませた。そして、僕が家を出ようとしたところ、スマホのメッセンジャーが産声をあげた。
僕はポケットの中からスマホを取り出すと、画面には珍しい相手からメッセージが届いていた。後輩の金子さんからだった。
● ● ●
マッハ先生の家の最寄り駅である、赤坂見附の駅の改札をでると、後輩で三年生の金子麗奈が僕に向かって手を振った。
因みにだが、先日マッハ先生が僕に出したなぞなぞがある。
「阿部君、問題だ。電車の中で傘を無くした。どこの駅で見つかるでしょう?」
「え? 駅ですか? 終点の駅じゃないんですか?」
そう答えた後に、忘れ物センターが設置されている駅か? とも考えたが、残念ながらどちらでもなかったらしい。
「残念だ、阿部君。 答えは『赤坂見附』だ!」
「なんでです?」
赤坂見附とは都内にある地下鉄の駅の名前だ。決して大きな駅でもないし、永田町駅と繋がってはいるものの、ハブステーションでもない。
「阿部君、それはだな、『あっ、傘か、見つけ!』だからだよ。フフフ」
僕は大きなため息をついた。
「……親父ギャグですか?」
っと、まぁ、そんなどうでも良い問題を出題された駅になる。
そして、目の前にはその駅の改札で、優しく手を振る金子麗奈が頭を下げた。
「先輩すみません。どうしてもゼミの事で、マッハ先生に直接聞きたいことがありまして」
「いゃ、別に構わないよ。どうせ僕も行くしね」
そう、僕が家を出ようとした時、先生の家を教えてもらいたいと、彼女は僕にメッセージを送って来たのだ。
僕はどうせ今日も先生の家に行くので、案内するよとメッセージを送り、先生の最寄り駅で待ち合わせをしたのだ。
そして駅から歩く事十分、先生の家の角に着く。
角からでも、先生の家の広さは十分に感じられる。
「こんな都心に、広大な土地の一軒家って、先生金持ちですか?」
麗奈は家を見上げながら、感心のため息を吐いた。
そして、その感想は普通だと思う。なにせ金になる特許を、いくつも持っており、本人はその特許の数を把握しているのかどうか、甚だ疑問に思える程なのだから。
その割には、なぜか門扉は電子ロックではなく、ダイヤル錠とこだわらないタイプなのがある意味面白い。
これが天才たるゆえんなのか、興味のある事にはとことん深く追求するが、それ以外は、全くと言っていいほど無関心なのだろう。
そんな事を考えていると、門の前に着き、僕はおもむろに例のダイヤル錠を回した。
「0・7・2・1っと」
「先輩!」
うぉっと、なんと、突如として後方から麗奈ちゃんが声を掛けて来た。
「なんでしょう?」
「このダイヤル錠の、語呂合わせってどうしているんですか!?」
……嫌な事を聞いて来る。なんだこの娘エスパーか!?
「いゃ、特に決めてないけど、何かいい語呂合わせでも思いついた?」
僕は咄嗟に誤魔化した。
「はぃ。麗奈日本一とかどうですか!?」
おぉ、この子『意識高い系女子』か? うん。お友達になりたくないタイプの子だ。
よし、近づかない様にしよう。
そんな事を考えた矢先、麗奈はブツブツと何やら小声で言いだしていた。僕は耳を澄ませて、その声を解読した。
「さっきの語呂合わよりも、『オールセブン二〇円で一儲け』こっちの方が、運気が上がっていいか?」
おぉっと、麗奈ちゃんはスロッターでしたか? やはり、ちょっと可愛いからと言っても、マッハゼミに来るべきにして来た人間だったかぁ。危険な香りがプンプンする子だ。
うん。やはり近づかない様にしよう。
僕は麗奈ちゃんに会って、まだ一〇分しか経っていなかったが、今日以降会わなくてもいいかな? と感じるのだった。
● ● ●
ギギギギギ~
僕は重い玄関扉を開ける。
因みに、扉が大きくて重たい訳ではい。ただ錆び付いているだけだ。
僕は、室内へ入ると、散歩で逸れてしまった犬を探す様に大きな声を出した。
「せんせ~~来ましたよ~~~。いないなら帰りますよ~~~。いなくてもいいですよ~~~」
すると残念ながら、部屋の奥から白衣を着た先生が現れた。
「おぉ、阿部君。来たか。待っていたぞ」
「僕は、残念ながら先生を、待っては居ませんでしたが」
そんな軽いジャブの打ち合いをしていると、先生は僕の後ろにいる女性に気が付いた。
「おぉ、君は金子麗奈くんだね、うちのゼミの。……確か前に一度だけ三分二十秒だけ話したことがあったね」
流石は天才。無駄に記憶力だけはいい。
「はい、以前少しだけお話させていただきました。可憐な美少女、金子麗奈です。今日はゼミの質問があってきました。よろしいでしょうか?」
「うん。質問はかまわんが、先に実験をやらせてもらってもいいかな? 阿部君にも午後の予定があるだろうし」
流石は先生。『可憐な美少女』はスルーですか。
僕としてはそこで、少し話が盛り上がってくれて、どさくさに紛れてフェードアウトを希望したいところなのですがね。
となれば、ここは一歩下がって、彼女の用事を先に済ませてもらうのが良いかもしれない。
「先生、ご安心下さい。この希代のイケメン阿部博文の様より、そちらのプリティー麗奈ちゃんの相談に乗ってあげて下さい」
「……阿部君、君はなんか変な物でも食べたのかね? 『希代のイケメン阿部博文?』『プリティー麗奈ちゃん?』頭大丈夫かね?」
「……先生、すみませんでした。繰り返さないでください。つーか、なんで僕の方だけちゃんと拾うんですか!?」
すると先生は、ニタリと笑って「だってそっちの方が面白いでしょう」と舌をだすのだった。
そして、本日の実験が始まった。
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