挨拶

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 千明は律儀で、優しくて、人のことを優先する。そのなかでも、しっかり真っ直ぐ前をみてるところが凄い。 「そういうところ、尊敬しかない。ほんとに凄いよ」 「そりゃどうも。一旦恵子さんの家に行くぞ」  昨日寄った富川家により、お線香、ろうそく、チャッカマン、掃除道具を借りていた。お供え物は、東京で購入したものがある。  そのまま車を置かせてもらい、二人でお墓のある場所まで歩いていく。田舎道はのどかで、湿った潮のにおいがしてくる。  坂道を歩いていると、少しだけしんどくなってきた。千明はそれを察して、私の手を取ってゆっくりと歩いてくれていた。  昨日通った診療所から、さらに山の中にはいっていくと、30段くらい階段があり、お寺になっていた。敷地内に墓地があった。水桶が用意されていたので、水を汲んでから、千明は墓石がならんでいるなかにある、"青砥"と書かれている墓地の前で立ち止まった。 「ここが母さんの墓」  和泉という名字は父方のものであって、もとは青砥という名字だったらしい。
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