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 体中に違う痛みと衝撃を感じながらも、両手にかかる重さで自分が間に合ったことを実感出来た。 「ま、間に合った〜……」  ホッとしたからか、力が抜けて顔を上げることも、目を開けることも出来ずにいた俺の耳に、女の子のため息が聞こえてきた。 「あらやだ、落ちちゃったわ」  少しツンとした感じの若い女性の声がする。まるで最近流行りの悪役令嬢みたいだ。  助けた女の子が、転生悪役令嬢だったらこんなに楽しいことはない。なんか笑える。 「下の転がってる人、助けてくれてありがとう」 「い、いえ……でも、その……そろそろ降りていただけるとありがたいのですが……」  手の上に感じる重みで、腕がピリピリしてきた。 「あら、青年。このままお姫様抱っこで抱き上げるくらいの力量はないのかしら」 「へっ……?」 「別にいいわ。世間一般の男子像からかけ離れた理想を追い求めている私がいけないのよ。お姫様抱っこを軽々とやってしまうような筋肉隆々の男性が、そんな都合よく目の前に現れるわけがないものね」  女の子が立ち上がったため腕の上は軽くなったのに、心はどんより重くなる。 「な、なんだよ、その言い方ーー」  俺は思わず拳をギュッと握りしめ、沸々とわき起こる怒りをおさえることが出来なかった。 「俺だって俺なりに頑張ってるし、君が危ないって思ったから助けたのに……そんな言い方ないじゃないか!」  ガバッと起き上がり、目の前に立つ女の子に気持ちをぶつけた。 「大学生の筋肉なんて、高校時代の部活で培われたものがほとんどじゃないか! 女子はどうせ守られたいとか言うんだろ? 俺みたいなクイズ研究部じゃダメなんだろ……」  そこまで言いかけて、ようやく女の子が無表情のまま俺をじっと見つめていることに気付いて我に返る。  やや茶色い長い髪と、可愛いらしい淡いピンクの着物。キリッとした瞳に目を奪われた。
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