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「せ、成人式の前撮り……?」 「そんなわけないじゃない。だいぶ情緒不安定みたいね」  冷たくあしらわれ、俺の目からは再び涙が溢れてくる。なのに月を背景に、涙越しにぼんやりと霞んで見える女の子につい見惚れてしまった。 「まさか、かぐや姫とか……?」  なんて口にして恥ずかしくなった。 「うわぁ! な、俺ってば何言ってんだ⁈ 冗談だから気にしないで……」  大の大人がかぐや姫だなんて、あれはフィクションであって実話ではない。 「あら、バレちゃった」 「……はっ?」  俺は驚いて目を見開き、大きなため息をついた彼女を凝視する。 「そうなの、久しぶりにこの街に降り立ったから、どこに何があるか忘れちゃったわ。だってあの頃はこんな公園なかったし」 「いやいや、絶対にそんなわけない!」  つい大声を出してしまうと、女の子はクスクス笑い出す。そして人差し指を口の前に立て、不敵な笑みを浮かべた。 「いいこと? このことは絶対に秘密よ。じゃないとあなたーー大変なことになっちゃうわ」 「じょ、冗談なんでしょ⁈ からかわないでください!」 「冗談? じゃあこの街に昔からあるお店を案内してあげる。私が昔からこの場所を知ってる証明になるし……こんなに月がきれいなんだもの。いい気分転換になるでしょう?」  彼女は俺を見るなり不敵な笑みを浮かべる。そしてまるで『エスコートしなさい』とでも言うように、手を差し出したのだ。 「でも……あっ、俺自転車だし」  この子がかぐや姫だなんて信じられない。きっと俺はからかわれているんだ。  でも……幽霊や都市伝説だってあるくらいだぞ。もしかして本当にかぐや姫の可能性だってあるんじゃないか?   俺は恐る恐る彼女を観察するーーというか、見れば見るほど彼女の魅惑的な姿に心を奪われている自分がいた。 「自転車? あぁ、それならいい場所があるから置いていっちゃいましょう。私も門限があるし、それまで散歩でもしましょう」  かぐや姫? しかも門限? いや、そんなことどうでもいい。今の俺の心の傷を癒してくれるのは、"一人にならないこと"なんだと思う。だって考えれば考えるほど、どんどん失恋沼にハマっていくから。  時計を見れば、夜の十時を指している。こんな時間から付き合ってくれるような友人は俺にはいない。それなら彼女と一緒にいる方が気分も晴れそうだった。 「さ、詐欺師とかでもないですよね……?」  そう聞くと、彼女はまた不敵に笑う。 「さぁ、どうかしら」 「ど、どうって……?」 「あら、私はかぐや姫なんじゃなかった?」 「じゃ、じゃあ本当にーー?」 「とりあえずお財布はしっかり肌身離さず持っていることね」 「……⁈」 「嘘。さぁ行きましょう」  女の子は俺の手を掴むとスタスタと歩き出す。女の子からそんな積極的なことをされたのが初めてだったから、俺の心臓は驚くほどの早さで打ち始めた。
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