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空には月がきれいに輝いている。心ここに在らず、俺はぼんやりと空を眺めていた。
まぁ友人たちも俺を励まそうとしてくれているに違いないから、その気持ちはありがたく受け取ろう。
今日は女の子たちと駅で待ち合わせてから店に行くらしく、改札に向かう階段の下で俺たちは皆の到着を待つ。
「ヒメカ、場所を間違えたみたい。あと少しで着くって」
今日の幹事らしき女の子がスマホを見ながらそう呟くと、俺は思わずドキッとした。
姫じゃなくて、ヒメカさんだよ。そう言い聞かせるのに、何故か心拍数が上がっていく。
「ヒメカちゃん! 名前からして可愛い〜」
「友だちの私が言うのもアレだけど、かなり可愛いと思う」
「おぉ、リアル姫だ」
「この間も、友達の結婚式に参列した時の写真を見せてくれたんだけど、意外にも着物で参加してて、本当に姫っぽかったもん」
ゴクリと唾を飲み込む。おかしいな、なんでこんなにドキドキが止まらないんだろう。
「合コンも全然興味なかったのに、なんか『新しい一歩を踏み出す』って。だから今日が合コン初参加。あまりグイグイ行かないでよ」
「了解ー」
その時、
「あっ、ヒメカ! こっちこっち!」
と幹事らしき子が階段の方に呼びかけると、階段の真ん中あたりにいた女の子が気付いて手を上げた。
俺はまるで時間が止まったかのよう。友人たちの言葉がまるでBGMのように耳に届く中、彼女から目が離せなくなる。
淡いピンクのブラウスに、ウエストがキュッとしまった黒のジャンパースカート。髪はハーフアップーーこの間とは全く印象が違うけど、俺は確信していた。だから嬉しくてつい頬が緩んでしまう。
姫は階段を降りながら俺に気付き、同じく驚いたように目を見開いたーーかと思うと、足を踏み外してバランスを崩した。
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