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 月がきれいな夜のこと。空から落ちてきた彼女は不敵な笑みを浮かべてこう言ったんだ。 「いいこと? このことは絶対に秘密よ。じゃないとあなたーー大変なことになっちゃうわ」  あぁヤバいぞ。俺はとんでもないことに首を突っ込んだに違いないーーゴクリと唾を飲み、そう確信した。 * * * *  なんだかいろいろうまくいかない。  月曜日はバイトの日を勘違いしていて店長に怒られるし、火曜日は好きだった子に告白して玉砕。水曜日は深夜まで大学のレポートを書いていたから講義に遅刻するし。木曜日はスマホを駅で落とすという大失態。見つかったから良かったけど。  そして最悪の金曜日。この日は祝日で朝から晩までバイトの予定だった。ランチタイムまでのシフトだったファミレスを出て、次のバイト先に行くまでの間にSNSを確認していると、あまりにも残酷な投稿を見つけてしまった。  火曜日に告白して玉砕した女の子と、俺が仲良くしている同じグループの男子が付き合うことになったらしい写真だった。  名言はしてないけど、繋いだ手と『ずっと一緒だよ♡』なんて文章を見たら、誰だってそう思うに決まってる。  俺は電車の座席に座ったまま項垂れた。このまま溶けていなくなってしまうようなーーいや、むしろそうなりたいくらい、体中の力がなくなってしまった。  とはいえ、またバイトを休んだら今度こそクビになりそうだし、エナジードリンクを一本飲み干して、無理矢理パワーチャージをしてバイト先のコンビニに向かった。  まぁそんな簡単に気持ちを切り替えることなんて出来なくて、何度も商品のバーコードの読み取り位置を見誤っては、お客さんをイラつかせてしまったんだけど。  こんなこと今までなかった。自分自身でもショックなのはわかっているが、思っている以上のダメージを負っているようだった。  なんとか勤務時間を乗り切って、ようやく帰路に着いた頃には涙が止まらなくなる。男が泣きながら歩くなんて怪しすぎると思って、とりあえず裏道に入った。  家まではここから自転車で二十分。なるべく人に見られないように急いで帰ろう。  すると目の前に児童公園が見えてきた。ここを突っ切ってしまえば時短になる。それにこんな時間だ。人がいたとしても、暗くて俺の顔なんて見えるはずがない。  ポールが二本立つ入り口を抜け、園内に入った時だった。  ふとジャングルジムの方に目をやると、とんでもない光景が目に飛び込んできたのだ。  満月が綺麗に輝く空を背景に、ジャングルジムのてっぺんに誰かが立っている。長い髪、そしてまるで成人式のような振袖を着た女性が、月を見つめているようだった。  俺は驚いて目を瞬くと、その魅惑的な姿に心を惹かれて思わず自転車を漕ぐ足を止めてしまった。  不思議だな……月より輝いて見えるなんてーーそう思っ時だった。女性の体がふわっと浮いたかと思うと、ジャングルジムから離れたのだ。  それはまるで月から落下してきたお姫様のようだった。  ぼんやりと眺めていた俺は一瞬で我に返り、自転車を放り出すと、今まで出したことのないくらいの全速力で走り出す。  彼女を受け止めないと! ただその一心で飛び出した。
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