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あまりに唐突なので、呆れて声も出ない。一緒に帰る?あたしと、宇野が?クラスも違うのに?バカバカしい。賛成なんか、するわけないじゃん。
「あたし、たっちゃんと帰るから無理」
「たっちゃんって?誰?」
そう言うと、宇野はきょとんとした。あー、もう、何でそんなこと訊くの。素直に「はいそーですか」とは言えないの? そう思っても、言えない。しょうがなくあたしは、たっちゃんを説明する。
「二組の森竜希。背が低くて、髪の長い子だよ。幼稚園の時から、家が隣なの。それで――」
「あっ、知ってる!」
宇野が急に大きな声を出したので、あたしは思わず彼を睨んだ。徐々に集まってきていた周りの生徒も、視線を宇野に向けている。皆が黙って静かになった図書室に、空調機のブーンという音だけが響いた。その音の中で、宇野は少し恥ずかしそうに唇を噛んだ。
「森って、あの有名な森竜希だろ?」
皆の視線が自分から外されて、図書室に話し声が戻ってきてから、宇野は口を開いた。
「知ってるの?」
あたしはそっぽを向いたまま、目だけを動かして宇野を見た。有名。そんな言葉が胸に引っかかる。
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