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話しかけつつ、目の前の男性の装いをさり気なく見る。
体にピッタリ合った濃紺のスーツと磨き抜かれた革靴、ちらりと袖からのぞく時計も、すべてが上質なものだ。
さらに、彼の後ろに停められている車も名の知れた高級外車だ。
こんなハイスペックな男性の知り合いはいない。
一瞬、母方の親族が頭をよぎる。
けれど縁戚というのも憚られるほどの遠縁だし、今までなんの関りもなかったので恐らく違うはずだ。
「君は梁瀬の分家の血筋だろう?」
頭の中を読まれたのかと、驚いて目を見開く。
「俺を知らないか?」
「申し訳ございません……どこかでお会いしましたか?」
尋ねると、彼は目を丸くした。
そしてハハッと楽しげな声を上げた。
「へえ……花嫁候補なのに花婿がわからないなんてな。……面白い」
花嫁候補?
誰が?
「初めまして、花嫁。俺は梁瀬瑛だ」
そう言って、彼がスーツの胸ポケットから名刺入れを取り出した。
渡された名刺に視線を落とす。
【梁瀬地所株式会社 社長 梁瀬瑛】
梁瀬地所って、梁瀬グループの主幹産業の……!?
梁瀬グループは日本有数の巨大優良企業だ。
高い売上高に加え、傘下には不動産業をはじめ、各商業施設など様々な業種の子会社を抱えている。
そのほとんどが素晴らしい業績を上げ、世界中に存在している。
ちなみに私の勤務先の親会社でもある。
経営者である梁瀬家は何代も続く名家で、都内にある本家のお屋敷は観光名所にもなっていると聞く。
さらに、現在三十二歳の梁瀬の御曹司が梁瀬地所の社長を務めているのは有名な話だ。
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