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「う……そ……本物?」
この人が噂の、御曹司?
「嘘じゃない。信じられないなら検索でもなんでもしてみろ」
有無を言わさぬ強い口調に圧倒され、震える指でバッグからスマートフォンを取り出す。
もたもたと検索している間、文句こそ口にはしなかったが、彼の鋭い視線は外れなかった。
梁瀬地所のホームページを検索すると、眼前の男性と瓜ニつの写真が映し出された。
ひゅっと息を呑む。
親会社の経営者一族の容貌をチェックしておけばよかった。
後悔先に立たずとはよく言ったものだ。
「あ、の……」
こういうとき、なんて声をかけるべきなの?
「わかったなら、一緒に来てもらおうか」
私の躊躇いをまるっと無視した梁瀬社長が、低い声で言い放つ。
一緒にって……どこに?
「説明はあとでする」
にこりともせずに告げ、サッと私の腕を取った。
状況が理解できずにいる私を、停めてあった車に誘導する。
「乗って」
助手席の扉が開けられ、半ば強引に押し込まれる。
「ち、ちょっと、待って……!」
「こちらの用件が済んだらきちんと送り届ける。心配するな」
「そうじゃなくて……!」
こんなの、まるで拉致じゃないの!
喉元まで出かかった声は、鋭い眼差しに押し返される。
名の知れた大企業の社長が、子会社の一般市民に危害を加えたりはしないだろう。
それでも怖い。
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