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「本当に……帰してくださるんですよね?」
ギュッと車内でバッグを握りしめ、尋ねる。
私の態度に、彼は一瞬驚いたように片眉を上げた。
「……へえ、一応警戒心はあるのか。俺に誘われて困るなんて……益々面白いな、お前」
面白い?
なにが?
ハンドルを握り、白い歯を見せる姿を無言で睨みつける。
「俺相手にそんな態度をとる女は初めてだ。里帆の言う通りなのが癪だな」
「なにを言って……?」
ほんの少し馬鹿にされたように感じ、問い返す。
すると、骨ばった指が私の首筋付近に触れ、梁瀬社長が少し身を乗り出してくる。
まさか、キス、される……?
思わず肩を竦めてギュッと目を瞑ると、カチッと軽快な音がした。
「シートベルト、ちゃんとしろ」
「え、あ……」
恥ずかしい……!
とんだ勘違いに、頬が一気に熱をもつ。
「キスされるとでも思ったか?」
クスクスと楽しげな声を漏らす姿を直視できず、頬が熱くなる。
先ほどからなにかを口にするたびに墓穴を掘っている気がする。
もう、目的地に到着するまでなにも話さずにいようと決め、うつむく。
「……やっぱり面白いな、お前。気に入った」
この短い間に何度面白いと言われただろう。
まったく意味がわからない。
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