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「言葉通りだ。俺の元婚約者、朝霞里帆は現在行方不明だ。言っておくが、誘拐や犯罪がらみではない。直筆の置き手紙があったし、そもそも結婚に乗り気ではなかったからな」
整いすぎた横顔にはなんの感情の変化も見られず、本心が掴めなかった。
婚約者がいわゆる失踪状態だというのに、どうしてこんなに落ち着いているのだろう。
「なんで捜さないのか、冷たいとか思っただろ」
心中を言い当てられて驚く。
なんでこちらを見ていないのにわかるのか。
「朝霞家が必死に捜索しているし、俺が口を出す話じゃないからな」
「でも、もし見つかったら?」
「里帆がいなくなってすでに三カ月近い。これ以上は待てないと梁瀬家当主の父が言い渡している。朝霞家は事を荒立ててこれ以上体面を傷つけたくないだろうから反対はしない」
冷静に話すこの人が信じられない。
そんな簡単に婚約者を挿げ替えるなんて、理解できない。
住む世界も考え方も違いすぎる。
「心配じゃないんですか……? 一度は結婚を考えた方ですよね?」
「里帆は幼馴染だ。アイツなりの考えと覚悟があっての行動だろう。頑固者だからな」
質問の答えとは言い難いが、声に非難は感じられなかった。
もしかしたら幼馴染の失踪を憎からず思っているのでは、と考えた。
「事情はわかりました。でもこんな突然婚約、結婚だと言われても受け入れられません」
迫力に怖気づきそうになりながらも、きっぱりと断る。
意外だったのか、彼は数回瞬きを繰り返した。
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